第18回「日本語でしゃべる英語」

日本語でしゃべる英語

 夏は国際学会の季節です。僕が最初に出席した国際学会は、3年に一度開かれる国際光合成会議で、やはり大学の夏休み期間中でした。1986年のことです。博士課程の2年目で初めての国際学会経験でした。今では、大学院生でも気軽に海外の学会に参加できますが、当時はまだかなり敷居が高かったように思います。行きの飛行機は同じ研究室の修士の学生だったTさんと一緒で、海外旅行は初めてだったTさんが成田空港で搭乗券をなくして、二人で青くなったのを今でも覚えています。搭乗券はすぐに拾われて届いたので無事搭乗できましたが、まだ国内にいるのにこれでは、海外に出てからどうなるやらと前途多難に思われました。

 宿泊場所は、夏休みで学生がいなくなっている大学の寮でした。部屋にドイツのRögnerさんが来て、ポスターの説明の練習に付き合ってくださいました。Rögnerさんは奥様が日本の方なので、日常会話には日本語が使えます。研究内容は英語で議論して、わからない点は日本語で質問できるという至れり尽くせりの練習でした。

 そして迎えたポスター説明の日、ポスター会場で何気なく聞いていたら、ある日本人参加者の説明の中に「This band is さんじゅうさん kDa protein」というセリフが出てきました。その途中だけ日本語の英語を聞いている方は、どんな顔をしているのかな、と思って見ると、アメリカ人と思しき中年の男性が眉一つ動かさずに熱心にうなずいています。図を見ながらだと、日本語でも通じるんですね。普段、英語の論文を読むときでも数字は日本語で考えてしまうことが多いので、自分も気をつけなくてはと、思っていたのですが、落とし穴はいろんなところにあります。ポスターに書いていなかった温度条件を質問されて答えたのですが、どうも通じません。考えてみたら、25℃の部分を「twenty five どしー」と発音していました。CはCelsiusかcentigradeなので、もしかしたら「シー」でも通じたかもしれませんが、「度」はさすがに日本語ですよね。

 今、研究室のセミナーで学生が論文の英語のタイトルを読み上げる際にも、何も言わないと「Synechocystis sp. PCC 6803」の数字の部分を「ろくはちぜろさん」と読みがちなので、そのようなときには、件のエピソードを紹介して「数字もきちんと英語で読む習慣をつけておいた方がよいよ」とアドバイスします。これは、英語のアドバイスであるとともに、何事も経験を重ねて上達するもので、最初から全てできる人はいないというメッセージでもあるのです。

2013.08.05(文:園池公毅/イラスト:立川有佳)
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