第27回「ブルーバックスの話」

ブルーバックスの話

 先月、ブルーバックスが創刊50年を迎えました。おそらく、理科好きの子供だったら、誰でも一、二冊は読んだことがあるだろうサイエンスに特化した新書のシリーズです。ご多分にもれず、僕も小学校の五年生ぐらいから読み始めていました。当時一冊280円ぐらいでしたから、お年玉が千円あると、三、四冊買えたものです。サイエンスと言っても、最初のころは物理ものが主で、数学ものが少し、生物関連のものはほとんどなかったように思います。相対性理論や量子力学の一般向けの解説本がいわば王道でした。都筑卓司さんの「四次元の世界」や「不確定性原理」など、魅力的な本がたくさんありました。

 その後、ブルーバックスで「光合成とはなにか」を書いてみないかというお誘いがあった時に、執筆の参考にしようと、子供のころに買ったブルーバックスを何冊か取り出してきて読み返してみました。ところが、やさしくて子供でも面白く読めたという記憶とは異なり、案外しっかり書き込まれているのにびっくりしました。もちろん、子供の頃の僕が天才少年であったという可能性をまず第一に考える必要がありますが、残念ながら、現存する小学校の頃の成績表が、動かしえない証拠としてその可能性を否定しています。とすると、残る可能性は、子供の頃の僕は、いわば精いっぱい背伸びをしてわかった気になって、そのわかった感が記憶に残ったということなのでしょう。

 このような背伸びをしていたのは、僕だけではなかったように思います。例えば文系の学生でも「相対性理論って何?」と聞くのは恥ずかしかったように思いますし、理系の学生でもカントの哲学について一くさり意見を言えたらかっこよいという風潮がまだ一部にはありました。ブルーバックスは、最盛期には年間二百万部以上売れていたそうですが、おそらくは、一生懸命背伸びをした若い読者がその多くを占めていたのではないでしょうか。ところが自分でブルーバックスの本を書いて、そのアンケートはがきを返送してくれた人の年齢を見たところ、平均年齢が60ぐらいなのに愕然としました。背伸びをする若い読者という層がほとんどなくなっているようです。おそらく、今の学生が昔のように背伸びをすると、きっと周囲から「痛い」と表現されるのが落ちなのでしょう。「はみだしっ子」に登場するグレアムは「多少無理に思えても手を伸ばしてつかめるなら精一杯背伸びしてでもつかめ」と父親に言われて反発しますが、つかめると信じて背伸びをすることが人を成長させることはまぎれのない事実だと思います。テニスでも「届かないかな」と思いつつ追いかけたボールには届かないのです。”Boys, stand on tiptoe!”と言いたいですね。もっとも英語には日本語の意味での比喩表現はないようですが。

 ところで、先月はブルーバックス50周年であるとともに「光合成とはなにか」の5周年でもありました。高校生には少し難しいとの評判ですが、若い人にも、是非、背伸びをして読んで頂ければと思います。今回は臆面もない自著の宣伝が落ちでした。

2013.10.15(文:園池公毅/イラスト:立川有佳)
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