第30回「御用聞きの経済学」

御用聞きの経済学

 今もテレビアニメとして続いている「サザエさん」に、三河屋の三平さんという登場人物がいました。酒屋の小僧さん(?)で、サザエさんの家に「ちわー。三河屋でーす」と御用聞きに来ます。若い人は御用聞きを知らないかもしれませんが、まあ、究極のコンビニですね。お店の人がちょくちょく家に寄ってくれて、足りなくなっているものを注文すると、次回にその品物を家まで持って来てくれます。家から一歩も出なくても買い物ができるわけです。でも現在はとんと見なくなりました。なくなった理由として、Amazonなどの通販との競争に負けたのかな、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実際には、実際にはAmazonなど存在もしなかった昭和も中ごろには既に少なくなっていました。何しろ人手がかかりますから、人件費が高くなった高度成長期以降の日本では、いちいち各家庭を回っての販売が成り立ちづらいのは納得できます。

 ところが、この御用聞き、大学の中では立派に生き残っています。理系の研究室では、実験に使う消耗品や試薬を日常的に補充する必要があります。この試薬などを扱う業者が、ほとんど毎日のように各研究室に顔を出して、足りなくなった試薬や消耗品がないかどうか御用聞きに回っているのです。一般家庭では絶滅した御用聞きが、なぜ大学では生き延びているのか、ある意味不思議です。御用聞きが生き延びられるかどうかは、利益が人件費を上回るかどうかによるでしょう。利益は、一人が回ることのできる家の件数に比例するでしょうから、一か所に研究室がかたまっている大学は確かに有利に思えます。しかし、それを言えばマンションも一か所に家がかたまっているようなものですから、これだけが理由ではないでしょう。

 次に考えられるのは、扱う商品のバラエティーの問題でしょうか。Amazonも商品の配送は人手を使っていますが、扱う商品を極限まで増やして商売を成り立たせています。これに対して、酒屋が扱う商品だけだとそう頻繁に補充する必要はないでしょうから、御用聞きによる商売が成り立たないと考えることができます。これが、マンション一棟の住民全てが大酒豪だったら、何とかなるかもしれません。大学は、ちょうどそんな感じで、試薬などの特定の商品をどんどん購入する人が集中しているので、御用聞きが生き延びているのでしょう。ただ、それなら、オフィスビルでは、事務用品の御用聞きが成り立ちそうです。堅気の一般社会とは隔絶した生活をしているものとしては断言できませんが、少なくとも、オフィスビルに「A4用紙は足りていますか」と御用聞きがくるという話はあまり聞きません。とすると、さらに何か要因がありそうです。残るのは利益率でしょうか。専門知識が取扱に必要な試薬は、競争相手が限られるでしょうから、事務用品に比べて利益率が高い可能性はあります。御用聞きの有無から商品の利益率を推定できるという経済法則を立てられるかもしれませんね。

2013.11.05(文:園池公毅/イラスト:立川有佳)
ページトップへ戻る