第7回「プテリジン、フォスフォドキシン、CRS、FRSなど」

  またまた大変に遅れてしまったことをお許しください。

さて今回の表題はこのような三題噺しならぬ四題噺しになってしまった。というのも前回始めたプテリジンのお話を続けようと、勉強しているうちにこの現在全く忘れ去られた四つの因子がお互いに密接に関連しあっていることに気付いた。まず下の表に簡単にまとめてみよう。

PSI

この表では、発表年代順に並べてみた。そうすると、この中でPteridineが一番古いことが分かった。また筆者の昔話と余談で恐縮だが、このPteridineを盛んに話していたのが当時アメリカの光合成関係の学会でやたらに目立っていたR.C.Fullerという人で、故三井旭さんはよく「キザなひとですねえ」と言っていた。あまり目立つので、筆者は今の今まで「Pteridine = Fuller」と勝手に思い込んでしまっていた。今回、古い文献を読んでいるうちにいろいろなことが分かってきた。まとめると:

1. FRSを除き、全て熱をかけて抽出した。

2. FRSを除き*、タンパク質ではない。

3. FRSを除き**、研究者間の交流があった。

註* 後述のようにFRSも低分子かもしれない。

註**phosphodoxinもFRSもSanPietro研だったが。交流の気配なし。

先に進む前に、個々のfactorについてもう少し詳しくまとめてみよう。

Pteridines: 構造については次回に少し詳しく述べるが、生体物質としては正しくはbiopterinと呼ぶべきで、前回示したプテリジン環とはかなり違う。

PSI

 光合成関係のPteridineは、Myers研で有機化学者のForrestがやった仕事が最初である。1957年にテキサス大学のForrestと Myers一派が発表した(1)。冷水で処理(cold shockと彼らは言っている)して光合成活性を失わせたAnacystis菌体に合成biopterinを加えると活性が回復したという報告である。あのキザなフラー氏はずっと後で追試したにすぎないのか?という疑問が起こるがこの話は次回にする。。

 Phosphodoxin:

サンピエトロ研でブラックが見つけたという光リン酸化促進乃至は必須因子。1963年(2)と1964年(3)の2報がある。1965年になって上記Forrest/Myers研が本体はbiopterinではないかという速報を出した(4)。この報告にはSanPietro/Blackと親密にDiscussionしたと書いてある。biopterin独特の蛍光もある。この報告以降Black達のフォスフォドキシンの報告は全くなく、彼らも納得したのではないかと思われる。

 Cytochrome reducing substance (CRS):/p>

Myers研からの上記速報とそのあとのfull paper(5)には藤田善彦さんが名を連ねているが、ここではCRSがまだ出てこないが、直後のCRS最初の速報(6)から1967年までの2年間に当時30代初めだった藤田さんは何と7報もこのCRSについて論文を出している。

今回改めて読んでみると、ほぼPhosphodoxinと同じ方法で調製していることに気付いた。違いは、藤田さんの実験はほとんどシアノバクテリアであることと、主にシトクロムCの光還元を測定していることである。ただし、これだけたくさんの報告があるから実にいろいろ実験している。実はこの「ほとんど」と「主に」というところに問題がありそうなことに気付いた。まずホウレンソウからもCRSをとっているのだ。しかもブラックと同じ方法なのだ。光リン酸化も調べてしまった。これもブラックと同じ活性がある。では違いはなにか? ブラックはホウレンソウの他に光合成細菌はやっているが、シアノバクテリアはやっていない。藤田さん達はほとんどシアノバクテリアを使っていて光合成細菌はやっていない。一方、活性測定については、ブラックはリン酸化だけで電子伝達はやっていない。こう見てくると、やったことに微妙なズレがあることが分かる。これが藤田さんが「CRSは別物」という確信を持つにいたる所以だったのではなかろうか。吸収スペクトルが違うというデータも出しているが、それほどきれいな標品とは思えないので、決定的証拠ではないし、藤田さんは何故かより特異的な筈の蛍光を測定していない。しかし、吸収スペクトルでCRSは違うと確信してしまったのではないか。前にも述べたが、筆者は後年(1979年から2年間)岡崎の基礎生物学研究所で藤田さんの助教授を務めた。あるときCRSのことを聞くと「若気の至りでお恥ずかしい….」とか言ってニヤニヤしてそれ以上語りたがらなかったのを思い出す。

Ferrdoxin reducing substance (FRS):

FRSは一番最後に登場した。これについては、本シリーズ第5回と第6回でかなり詳しくお話しした1969年のGordon Conferenceでの発表だけかと思ったら、よく調べるとBBRC(7)とABB(8)に1報ずつ、さらに1973年には総説(9)にも登場させていたのが分かった。しかしそれ以後まったく登場しなくなった。FRSの最大の「売り」は加熱しないで抽出していることであるが、Sephadex-G75カラムで分子量1万程度のプラストシアニンより後に出てくるというからタンパク質だとしても随分小さなモノだろう。低分子である可能性も否定できない。ここでもCRSと同じような思い込みがあり、同じグループから出たが、当時既に消えていたPhosphodoxinとの比較実験は何もやっていない。計画中とは書いてあるが1973年の総説(9)にもないからやってないのだろう。後期には自信も失っていた様子は、本シリーズ第5回に詳述したように、当時(1971年)ケタリング研究所に学位取得に必要なデータを何とか出してくれとやってきた彼と親しくなって実験を手伝った筆者がよく知っている。

となると、結局、結論として、プテリジン、フォスフォドキシン、CRS、FRSは同じものだったということになるかもしれないという気がしてきた。次回はこの話を中心に話をまとめてみたい。

REFERENCES: 1. van Baalen,C.,.Forrest, HS., Myers, J. PNAS 43(1957)701

2. Black,C.,SanPietro,A.Limbach,D.,Norris,G. PNAS 50(1963)37

3. Black,C.,SanPietro,A.,,Norris,G.,Limbach,D Plant Physiol.39(1964)279

4. Mclean,FI,,Fujita,Y., Forrest, HS., Myers,J Science 149(1965)636

5. Mclean,FI.,Fujita,Y.,Forrest, HS., Myers, J Plant Physiol. 41(1966)774

6. Fujita,Y, Myers, J. BBRC 19(1965)604

7. Yocum,CS.,SanPietro,A. BBRC 36(1969)614

8. Yocum,CS.,SanPietro,A. ABB 140(1970)152

9. Yocum,CS.,Siedow, JN., San Pietro,A. Iron-Sulfur Proteins I (1973) 111, Academic Press

2015.3.04
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