No1:久堀徹

   (東京工業大学資源化学研究所附属資源循環研究施設)

 光合成研究者の皆さんに、是非読んでいただきたい私たちの最近の論文を紹介したい。

DNA-maleimide: An improved maleimide compound for electrophoresis-based titration of reactive thiols in a specific protein.

Hara S, Nojima T, Seio K, Yoshida M, Hisabori T.
Biochim Biophys Acta. 2013 Apr;1830(4):3077-81. doi: 10.1016/j.bbagen.2013.01.012. Epub 2013 Jan 26.

 私は、学生時代から葉緑体ATP合成酵素の研究をしているので、ATP合成酵素との付き合いはすでに30年以上になる。最初のころは、50把、100把という大量のホウレンソウをミキサーにかけて葉緑体を抽出し、そこから酵素を取ることを繰り返していたが、時代の変遷とともに研究手法も大きく変化してきた。現在では、シアノバクテリアのATP合成酵素を過剰発現する大腸菌を培養するだけなので、タンパク質の調製もずいぶんと楽になったものだ。葉緑体ATP合成酵素は、代表的なチオール酵素であり、還元状態で高いATP加水分解活性を示す酵素である。このため、学生時代は酵素の抽出には大量のDithiothreitol(DTT)を投入していて、いつも「火薬」の香りのする抽出液や反応液を使っていた。その後の研究の展開で、チオール酵素を還元するタンパク質であるチオレドキシン、さらには、このチオレドキシンが還元するタンパク質を研究対象とするようになった(光合成研究 2002年11月号)が、DTTとの付き合いは相変わらず続いている。

 さて、DTTは分子内に2個のSH基を持っていて、システイン側鎖が形成するタンパク質上のジスルフィド結合を還元することが出来る。ジスルフィド結合は共有結合なので、還元されるとタンパク質の構造変化が起こって、活性が変化する、多くのチオール酵素では「活性化」が起こるという訳である。

 通常は、このような活性変化に直結するジスルフィド結合は、ひとつの酵素分子内にいくつもあるわけではない。しかし、システインを5個も6個も持っているタンパク質だと、個々のシステインがどのような状態にあるのかを調べることは、ジスルフィド結合の役割を知る上で非常に重要である。タンパク質分子の持っているシステインの酸化還元状態を調べる方法としては、5,5'-Dithiobis(2-nitrobenzoic acid)(通称DTNB)を用いたSH基の定量法や、4-acetamido-4′-maleimidylstilbene-2,2′-disulfonic acid (通称AMS)を用いた標識などが知られている。前者では、反応後に溶液に放出される5-Mercapto-2-nitrobenzoic acidが特異的に黄色を呈するため、分光学的に溶液中のSH基のモル濃度を割り出すことが可能である。タンパク質分子中のシステインの数は整数であるが、この方法で得られるSH基の数はSH基の全体の状態を反映しているため、必ずしも整数にはならないというのが常である。後者は、変性させたタンパク質のSH基をAMSという試薬で標識する方法であり、標識されたタンパク質はAMS分子の分子量分だけ大きくなるので、SDSゲル電気泳動で直接見分けることが出来るし、移動度を測定すると何個のSH基が修飾されたかもわかるという便利な方法である。ところが、AMSは分子量が500強なので、2個結合しても1000程度しか分子量を大きくすることが出来ない。したがって、大きなタンパク質にはこの方法は応用できない。

 この問題を克服するために、Polyethylene glycol(通称PEG)にマレイミドを導入した試薬、PEGマレイミドが使われる。PEGは分子量が5,000くらいあるので、これを使えば、分子量が10万のタンパク質であっても、標識して移動度を変化させることが可能というわけなのだが・・・・。この方法にも欠点がある。PEGは有機合成された重合体で、その分子量が一様ではない。例えば、手元にあるPEG5000を質量分析で調べてみると、分子量には±1000くらいの幅がある。しかも、PEGにはおそらくSDS分子が結合できないので、標識したタンパク質はSDSゲル電気泳動で期待した通りの移動度の変化を示してくれない。従って、移動度の変化からSH基を定量することもできない。

 私の研究室では、さまざまなチオール酵素を扱っているので、長い間、この問題を何とか解決したいと考えていた。最初に考えついたのは、適当な長さのペプチドを人工合成して、その末端にマレイミドを導入するという方法である。SH基を修飾する試薬がペプチドであれば、修飾後にこのペプチドにはSDSが定量的に結合するので、電気泳動の問題は解決するはずである。私の研究室は大腸菌でタンパク質を発現させることは得意だし、適当な長さのアミノ酸配列を発現させることも容易だろうと当初考え、修士課程の学生に挑戦してもらった。しかし、「言うは易し行うは難し」である。実際には、簡単なことではなかった。そもそも、低分子のペプチドの精製は非常に難しい。また、大腸菌を利用して過剰発現しようにも、低分子のペプチドの過剰発現というのはなかなか出来ないし、確認も困難である。ペプチドの人工合成も考えたが、こちらも利用可能な量を得ようとするとコスト面で折り合わないことがわかった。 さてどうしたものか、と悩んでいるときに、卒業生で別の研究室でPDをやっている野島君が、DNAでタンパク質を標識したら電気泳動の移動度がうまく変化した、という情報を持ってきてくれた。これは使えるかも知れない。早速、特任助教の原君に頼んで、DNAにマレイミドを導入する実験をしてもらった。こうしてできあがったのが、シングルストランドDNAマレイミドである。これを標識試薬として用いると、大きなタンパク質でも容易に電気泳動の移動度を動かすことが出来るし、しかも、PEGマレイミドに比べるとはるかにきれいにバンドが収束することがわかった。さらに、移動度を定量してみると、驚いたことに分子量に関係なくSH基1個あたりほぼ一定のシフトをすることもわかった。つまり、物差しを使って測るだけで、SDSゲル電気泳動上でSH基の数を直接数えることが可能なわけだ。

 さて、喜んで論文を書いてみたが、投稿先をどうしよう。何しろ、メソッドだけの論文である。Nature Methodsに送るには、ちょっと話がスペシフィックかな。PNASに送ったら、応用実験もやれと言われるに違いない。あれこれ考えた末に、BBA General Subjectに送ることにした。インパクトファクターも5あるし、いいじゃないかということで。 投稿からひと月ほどでエディターから返事を頂いた。一人のレビュワーは、”An interesting and good ms.”とストレートに褒めてくれたし、もう一人も” The method seems to be a decided improvement over the PEG-Mal and AMS methods”と評価してくれた。三人目のレフリーだけが非常に親切、かつ厳密で本文はおろかタイトルまで書き直しを要求してきた。と言うわけで、論文はそれからひと月ほどですんなりBBAにオンラインで掲載されてしまった。評価が良すぎて、送るJournal を間違えたのではなかろうか、と思わなくもないのだが、SH基を研究する一人でも多くの人に役立てていただきたいので、早く発表できたことを素直に喜びたいと思っている。

 ちなみに、私たちが投稿したときの論文タイトルは、
DNA-Maleimide: an advanced maleimide compound used to detect the redox status of the cysteinyl thiol in a protein
であった。レビュワーのお勧めの方が、確かに良くなっているし、役に立ちそうな感じがする。

2013.04.08 久堀徹
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