No2:坂本亘

   (岡山大学資源植物科学研究所)

Coordinated regulation and complex formation of YELLOW VARIEGATED1 and YELLOW VARIWGATED2, chloroplastic FtsH metalloproteases involved in the repair cycle of photosystem II in Arabidopsis thylakoid membranes.

Sakamoto, W., Zaltsman, A., Adam, Z., and Takahashi, Y.
Plant Cell (2003), 15: 2843-2855.

 私の研究室で研究対象にしている「葉緑体プロテアーゼ」に関する論文は、2000年からこれまで20報を超える。ほとんどがFtsHというプロテアーゼのものである。その中でも一番思い入れがあるのはこの論文だろうか。苦い思い出も含めて、紹介させていただくことにした。

 もともと、シロイヌナズナの遺伝学的手法をベースに、形態形成やオルガネラ分化に広く興味があったので、葉が「斑入り」になる変異体から新たな葉緑体分化のしくみを調べたい、と岡山に来てから志していた。1994年頃からだった。岡山では、高橋裕一郎さんと知己があり、光合成のこともいろいろ学びはじめた。ただ、孤立無援でなかなか進まない。そんな中で、「斑入り変異」については、アメリカでRodermel達のグループが先行研究を進めていることも聞いていた。日本では競合相手はほとんどいなかった。当時、私の研究に賛同してくれた学生の武智克彰君(現熊本大)と、自分達で作ったT-DNAタギングのライブラリーから斑入り変異体が取れたのが1998年頃。当時はまだゲノム情報が完全ではなかったので、自分でTAIL-PCRをしてサーチをかけ、相同配列が出てきた日のドキドキ感は今でも鮮明に覚えている。2番染色体の何かが出てきた。どうやら未知の遺伝子ではなく、名前からは大腸菌で細胞分裂に関連するファクターらしい。そうやって、FtsHというタンパク質に出会い、その機能を論文で調べだした。

 ところがしばらくして、取れた遺伝子はどうやらRodermel達の取った遺伝子と同じだとわかると、別のドキドキ感(焦燥感)に変わってしまった。とにかく必死で論文を書きはじめたのが2000年に入ってからだったが、その年の4月には彼らの論文が発表されてしまった。当時は、先に発表されると自分達のデータには価値がなくなる、といった雰囲気だったので、随分落ち込んだけど、何とか同じ年に論文にしようと努力し、PCPの12月号で表紙付きの論文にしてもらった。幸いにも、向こうはマップベース、こっちはタギングで単離した論文として、今となってはどちらも一緒に引用されている。でも当時は「先を越された」ということに疑心暗鬼になり、孤立無援で研究している自分が情けなくなったりしたものだった。この、既に報告されていた変異体variegated2 (var2)の原因遺伝子がコードしているのがFtsHプロテアーゼ(FtsH2)で、光化学系IIの修復とD1分解の主役として認識されるようになり、その後、いろんな方の教えも受けて、私も光合成の研究に深く関わるようになった。

 さて、2000年12月は、ちょうどシロイヌナズナのゲノム解読がNatureに発表された時で、それから一気に「遺伝子ファミリー」などが網羅的にわかるようになった。そんな論文がどんどん出始める時期だった。FtsHも調べてみると少なくともホモログが12個は出てくる。それらのゲノム上の位置を調べてみたら、5番染色体にあるFtsHホモログ(FtsH5)と、別の突然変異として既に報告されているvar1が近いことがわかった。実際に詳しく調べてみると、原因遺伝子がFtsH5をコードすることがわかり、2002年に論文にまとめた。でも、もうその頃はFtsHの論文はいつもリジェクトされ、私は疑心暗鬼の固まりと化していた。var1の論文だけはどうしても先を越されたくないし、クレームをつけられたくないので、自分の競合相手が絶対に査読しないGenes To Cellsに出した。当時、この雑誌には植物の論文なんて殆ど出てなかったと思う。自分では、必死だった。

 Nobodyは相手にされないんだな、と落ち込んでいたけど、リジェクトされたおかげでデータは貯まってきた。VAR1(FtsH5)とVAR2(FtsH2)の良い抗体も出来た。FtsHホモログの発現系や、当時は斬新だったGFPによるオルガネラ局在の実験系も作って12個のホモログ全てを葉緑体型とミトコンドリア型に分けた。それから、ホモログがあるのに両方とも「斑入り」になるので、var1var2には遺伝的冗長性がなく、何らかの協調的発現があるかもしれなかった。それらの関係を調べるうちに、2つのタンパク質がヘテロ複合体であることもわかってきた。FtsHでは大腸菌やバクテリアで先行研究があったが、ヘテロ複合体の例はなかったので、それらは新しい知見として認識された。それから、他のFtsHホモログのノックアウト変異も全部単離した。結果的に、これらのデータをまとめて、2003年にPlant Cellに発表したのが、今回紹介する論文である。ヘテロ複合体で発現がタンパク質レベルで調節されているという知見については、やっと、先を越されないで論文にできた。

 私がvar1の論文を発表した頃、葉緑体プロテアーゼを精力的に研究していたAdamからメールがあり、スウェーデンのワークショップに来ないかと誘ってもらい、主催者だったClarkeに招待してもらった。そこでAdamとは知り合い、FtsHのノックアウトを譲り受けたりして、2003年の論文では、彼が共著になっている。チラコイド膜タンパク質のゲル濾過は高橋裕一郎さんに協力してもらい、彼も共著になっている。孤立無援でやってきたけど、結果的にはいろんな方のサポートを得ながら成果をまとめることができた。随分経った現在でも、FtsH研究の重要な論文と位置づけられるようになり、やはり一番印象に残っている。

 この論文が出た頃、FtsHは、シアノバクテリアで光化学系IIの周辺にあることが示唆され、PSII修復サイクルにおけるD1分解を担うプロテアーゼではないか、と注目され始めていた。Rodermel達だけでなく、AdamやNixonらも注目して研究が進みつつあった。斑入りの研究から始まった私の研究も、期せずしてそのような光合成の研究に発展した。プロテアーゼの研究は難しいが、重要で様々な生理作用を支えている。今になって考えると、実験でいろんな方に助けてもらったこと、それから、競合者がいる中で何とか論文を書けたこと、が今につながっているように思える。

2013.04.18 坂本亘
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