カルシウム(酸素発生)[calcium (oxygen evolution)]

  光合成酸素発生活性に必須の無機金属カチオン.光化学系Ⅱ膜標品では反応中心当たり2原子のカルシウム(Ca)が存在する.1つは酸素発生複合体に,他の1つはクロロフィルa/b結合タンパク質に結合している.クロロフィルa/b結合タンパク質がない光化学系Ⅱコア複合体では反応中心当たり1つのCaが存在する.結合は*24(23) kDaタンパク質により安定化されており,外部水溶液中のCaと交換しないが,24 kDa タンパク質の除去により交換可能となる. S2, S3状態では親和性が下がるため,24 kDa タンパク質除去標品を弱光照射すると遊離が促進される.低pH(~pH 3)ではCaが選択的に遊離する.Ca除去した標品では酸素発生活性が阻害されるが,Caにより活性が回復する.Ca濃度に依存した酸素発生回復の解析より得られるCa結合の見かけの親和性は, 24 (23) kDaタンパク質がない場合0.1 mM程度であるが,より高い,または低い親和性をもつ部位の存在も報告されている.Caは酸素発生複合体の構造の安定化のほか,水の酸化反応に直接関与している可能性も指摘されている.Ca結合部位には他のカチオンも結合可能であるが,Sr以外のカチオンはCaと機能的に代替できない.マンガン(Mn)およびCaの広域X線吸収微細構造スペクトルよりCaとMnの距離は約3.6~3.7Åと見積もられている.酸素発生複合体中でのCa結合部位の位置や配位構造に関する情報はほとんどない.Ca除去標品ではマンガンクラスターの酸化はS2状態まで進行するが,S3へは反応が阻害される.生成したS2状態のマンガンクラスターの性質は24 (23) kDaタンパク質の結合や溶液中のキレーターなどにより大きく変化する.S2状態の標品をさらに光照射すると,g=2付近に特徴的なEPR信号が生成する.この信号はチロシンZラジカルとマンガンクラスター(または,有機ラジカル)の磁気相互作用に由来している.この信号はCa除去のため,通常EPR信号を示さないS3状態が信号を示すようになったものと考えられたこともあったが,現在では正常なS3とは異なる起源由来の信号であることがわかっている.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:59