クリプト植物 [cryptophytes, cryptomonads]

 二次共生による葉緑体獲得の典型例として知られる単細胞遊泳性の藻類の一群.クリプト藻ともよばれる.葉緑体は側膜性で1細胞に1または2個存在し,褐色,紅色,青緑色など種によってさまざまな色を呈する.色素体は紅色植物の二次共生に起因し,本来の2重包膜に加えてその外側が色素体ERで囲まれるため,計4枚の包膜をもつ.色素体ERの外膜にはリボソームが付随し,核膜と広く融合している.葉緑体包膜2枚目と3枚目の間は色素体周縁区画(periplastidal compartment, PPC)とよばれ,この部分に痕跡的な共生者の核であるヌクレオモルフと真核生物型リボソームが存在し,また貯蔵多糖であるデンプンが蓄積される.チラコイドはふつう2重ラメラを形成する.クロロフィルはac2 をもつ.フィコビリタンパク質は他の藻類とは異なりフィコビリソームを形成せず,1種類のフィコビリタンパク質がチラコイド内腔側に存在する.おそらくこのため,クリプト藻のチラコイドは一般的なものにくらべてやや厚い(約 30 nm).このフィコビリタンパク質は色に応じて紅色系のフィコエリスリンと青色系のフィコシアニンに分けられるが,構成タンパク質(αおよびβサブユニット)は全てのクリプト藻で相同なものである.このタンパク質のβサブユニットは紅藻のフィコエリスリンβサブユニットと相同性が高く,クリプト藻のフィコシアニンは他の藻類のフィコシアニンとはタンパク質レベルで起源が異なるものだと考えられる.このクリプト藻のフィコビリタンパク質には発色団の構成に大きな多様性が見られ(表1),それに応じて葉緑体の色調は種によって多様である.このようなフィコビリタンパク質の違いはクリプト藻内の系統に比較的対応したものであることが知られている.また貧窒素条件下ではフィコビリタンパク質が分解されるため,緑色を呈することがある.カロテノイドとしてはアロキサンチンゼアキサンチン,クロコキサンチン,モナドキサンチン,α-カロテンなどが報告されている.特にアロキサンチンはクリプト藻類に特有のキサントフィルで比較的多く存在するため,そのマーカーとされることもある(ただし近年,他の藻類から若干報告されている).Cryptomonas属の一部(以前はChilomonasとして分けられていた)は光合成能を欠失した従属栄養性(吸収栄養)であり,白色体をもつ.またクリプト植物内で最も初期に分岐したゴニオモナス(Goniomonas)は捕食栄養性であり,色素体の痕跡は見つかっていないが,二次的な欠失か否かは不明である.

表1. クリプト藻のフィコビリタンパク質発色団に見られる多様性

 α-Cys-18 (19)β-DiCys-50, 61β-Cys-82β-Cys-158
PE545DBVPEBPEBPEB
PE555PEBDBVPEBPEB
PE566Bilin 584 or 618Bilin 584PEBBilin 584
PC569PCBBilin 584PCBBilin 584
PC577不明
PC612PCBDBVPCBPCB
PC630不明
PC645MBVDBVPCBPCB
PE = フィコエリスリン; PC = フィコシアニン; DBV = 15,16-ジヒドロビリベルディン(15,16-dihydrobiliverdin); PEB = フィコエリスロビリン; PCB = フィコシアノビリン; MBV = メソビリベルディン (mesobiliverdin). Based on Hoef-Emden (2008)

 基本的に単細胞遊泳性であるが,条件によって不動性となり集塊を形成することもある.細胞亜頂端から生じる2本の不等運動性鞭毛をもち,鞭毛上に2部構成の管状小毛をもつことが多い.多くは560 nm 付近に極大を示す正の光走性を示し,おそらくロドプシンが光受容体となっていると考えられている.またごく一部の種(e.g. Chroomonas spp.)では葉緑体内に眼点が存在するが(細胞表層には面しておらず,細胞質側で扁平な小胞が面している),このような種は400 nm 付近に極大を示す負の光走性を示す.細胞膜は薄い板状構造で裏打ちされており,ペリプラスト(periplast)とよばれる表皮構造を形成している.また射出体(ejectisome, ejectosome)とよばれる特異な射出装置が多数存在するが,これはバクテリア起源の構造であることが示唆されている.ミトコンドリアクリステは板状.二分裂によって増殖する.有性生殖に関してはよく分かっていないが,一部の種で単一の培養株中に単相の細胞と複相の細胞が存在することが知られており,世代交代の存在が示唆されている.単相細胞と複相細胞は両者とも単細胞遊泳性であり,二分裂で増殖するが,ペリプラストなど微細構造的に差異がある.Guillardia thetaにおいて核ゲノム配列が,いくつかの種でヌクレオモルフや色素体ゲノム配列が報告されている.

 クリプト藻は淡水から海水まで植物プランクトンとして普遍的であり,ときに大増殖することもある.特に寒冷地,貧栄養域,深水層などでは多く,このような環境では一次生産へ大きく寄与していると考えられている.また低次捕食者の餌としても重要な存在であることが報告されている.一部の渦鞭毛植物や繊毛虫の盗葉緑体となることがある.

 クリプト藻はクリプト植物門(Cryptophyta)に分類され,色素体をもつクリプト藻綱(Cryptophyceae)とこれを欠くゴニオモナス綱(Goniomonadea)に分けられている.前者にはクリプトモナス(Cryptomonas),ロドモナス(Rhodomonas),クロオモナス(Chroomonas)などが含まれる.真核生物内におけるクリプト植物門の位置ははっきりしていない.


Last-modified: 2015-03-23 (月) 16:28:40 (1696d)

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