クロロフィル合成変異株[chlorophyll synthesismutant]

  クロロフィル生合成の研究の歴史の中で,クロロフィル合成変異株は多大な役割を果たしてきた. 1950年頃にGranickらによってChlorella vulgarisの変異株が多数単離され,これらの変異株の研究からプロトポルフィリンⅨマグネシウムプロトポルフィリンⅨなどがクロロフィル合成の中間体として初めて同定された. 1960年頃,Rhodobacter類からいくつものクロロフィル合成変異株が同定され,研究が始められた.これらの研究は1990年代に入って,プロトポルフィリンⅨマグネシウムケラターゼの遺伝子の同定などの華々しい成果につながった.クロロフィル合成変異株は高等植物でも数多く知られており,これらの変異体はクロロフィル合成経路の各段階の研究だけでなく,クロロフィル合成経路と細胞内の他の代謝経路との相互作用や,クロロフィル合成速度の調節のしくみを解明する上で欠かせない材料になると考えられる.以下に代表的な変異株の名称と表現型および変異遺伝子を例示する.

 chlorina1:シロイヌナズナ'Arabidopsis thaliana'の変異株.クロロフィルbが消失,または減少し,LHCIやLHCIIが減少し,葉が黄緑色になる.原因遺伝子はクロロフィリドaオキシゲナーゼをコードする.

 xantha-f, xantha-g, xantha-h:オオムギ:Hordeum vulgareの変異株.原因遺伝子はそれぞれ,プロトポルフィリンⅨマグネシウムケラターゼのH, D, Iサブユニットである.xantha-fに相当するシロイヌナズナの変異体はgun5とよばれ,葉緑体から核へのシグナル伝達経路に異常のみられる変異体として有名である.

 tigrina-d:オオムギの変異株.一定期間以上暗所で育てると多量のプロトクロロフィリドが蓄積し,その後,光をあてると白色化する.(原因遺伝子:機能未知の葉緑体タンパク質Fluをコードする.クロロフィル合成の制御に関わっていると考えられている).

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:14