ピルビン酸・リン酸ジキナーゼ[pyruvate, orthophosphate dikinase]

  系統名はATP : ピルビン酸,正リン酸ホスホトランスフェラーゼ(EC 2.7.9.1).触媒する反応は次の通りであり,可逆性に富む.
 ピルビン酸+正リン酸+ATP⇔ホスホエノールピルビン酸+PPi+AMP
 生物種としては植物とプロピオン酸細菌およびある種のアメーバに存在する.植物においては,C4ジカルボン酸回路においてその鍵酵素として葉肉細胞の葉緑体に局在し,一次二酸化炭素固定酵素ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの基質であるホスホエノールピルビン酸の供給反応の触媒酵素として機能する.発現抑制された形質転換植物の光合成活性解析から,C4光合成の準律速段階であると考えられている.また,ベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)回路においてもこの酵素はC4光合成と同様にホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼに基質を供給する.C3植物においては孔辺細胞と頴果に局在するが,その生理的役割は定かではない.上記の植物以外の生物では,この酵素は解糖系酵素ピルビン酸キナーゼに替わって,反応の可逆性を利用して解糖にも糖新生にも機能している.
 C4植物種であるトウモロコシ,ソルガム,C3,とC4種の中間型であるFlaveria browniiやC3種のイネなど多くの植物から,この酵素の遺伝子は同定されており,酵素分子としての研究も多い.トウモロコシやいくつかのC4種では,同一のサブユニットの四量体として存在し,溶液状態でこの酵素は低温で解離して活性を失う.この酵素の活性構造保持にはマグネシウムイオンを必要とし,このイオンを除去することによって四量体は解離し活性が消失する.この反応はアルカリ性pHのもとで助長される.これに対し,F. browniiの酵素では,低温における活性低下はみられない.C4植物とCAM植物では,この酵素は葉緑体内において照射光量に応答して活性が調節され,暗所では不活性型になる.そのしくみは他の生物ではみられないユニークなもので,暗と明に応答し,ADPによりそれぞれリン酸化と無機リン酸に依存する脱リン酸化を受け,不活性型と活性型に相互転換される.近年このリン酸化反応に関わるタンパク質は同定されたが,光強度シグナルの酵素の転換に至る情報伝達のしくみは未だ解明されていない.これらの活性調節に加えて,その遺伝子発現も,C4ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼと同様に照射光量や窒素栄養に応答して制御される.この窒素栄養による遺伝子発現の制御は窒素栄養シグナルの内部シグナルと考えられるサイトカイニンを介した転写段階で行われる.この場合,サイトカイニンの情報は細菌の二成分制御系(ヒスチジン-アスパラギン酸リン酸リレー系とも呼ばれる)と類似した機構によって伝達されると考えられる.翻訳後および転写の段階でのこれらの酵素活性の調節は,光や窒素に対する効率の高さおよび低温に対する効率の急激な低下など,C4光合成,ひいてはC4植物の生理特性の少なくとも一部を規定する酵素的な要因であると考えられる.


Last-modified: 2015-03-23 (月) 16:30:51 (1610d)

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