ペルオキシソーム[peroxisome]

  真核細胞に普遍的に存在する直径0.2~1.5μmの単膜に囲まれた細胞内小器官で,内部に膜系をもたない.以前は,マイクロボディあるいはミクロボディと呼ばれていたが,過酸化水素を消去する一群の酸化酵素とそれを分解するカタラーゼが局在するという機能的な意味合いから,最近ではペルオキシソームと呼ばれることが多い.
 高等植物では,発芽直後の黄化子葉に存在するグリオキシソーム,緑化子葉などの光合成組織に存在する緑葉ペルオキシソーム,根や茎などに存在し,機能がまだ未同定なペルオキシソームの3種類に機能的に分類される.グリオキシソームは,脂肪酸代謝のためのβ酸化系とグリオキシル酸回路をもち,緑葉ペルオキシソームはグリコール酸回路の一部を担っている.また,根粒組織では尿酸代謝にも関与しているほか,植物ホルモンであるジャスモン酸の生合成経路の一部も担うなど,植物の一生を通じて多岐に働いている.ペルオキシソームタンパク質の機能が欠損した変異体では,発芽にショ糖を要求したり,光合成活性の低下の結果,矮性を示すなど著しい成長抑制を受けることから,植物個体の維持に必須の細胞内小器官であるが,そのすべての機能は完全には明らかにされていない.
 独自のゲノムをもたないため,ペルオキシソームで機能するタンパク質はすべて核にコードされており,マトリックスタンパク質の多くはペルオキシソーム輸送シグナル(peroxisome targeting signal,PTS)をC末端あるいはN末端にもっている.前者はPTS1と呼ばれ, (Ser/Ala) -(Lys/Arg/His) - (Leu/Met)を基本とした3アミノ酸がシグナルとして機能している.一方, PTS2はN末端に存在するArg -(Leu/Ile/Gln) -x-x-x-x-x-His-Leuがシグナルであり,PTS1とは異なり,ペルオキシソーム内へ輸送された後に切断される.これに対し,ペルオキシソーム膜タンパク質の場合は,顕著なコンセンサス配列は見つかっていない.
 ペルオキシソーム形成にはPex (Peroxin)と呼ばれるタンパク質が関与しており,現時点では,動植物を通じて30種類以上同定されている.PTS1レセプターであるPEX5,PTS2レセプターであるPEX7,ペルオキシソーム膜上でのレセプター結合タンパク質であるPEX14に加え,タンパク質輸送に関わるPEX1,PEX2,PEX3,PEX4,PEX6,PEX10,PEX12,PEX13,PEX22,APEM9 (Aberrant peroxisome morphogy 9),ペルオキシソーム膜タンパク質輸送に関わるPEX3,PEX19,ペルオキシソームの増殖に関わるPEX11,PEX16が,シロイヌナズナやタバコ,イネをはじめ多くの植物で同定されている.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:34