光合成の進化[evolution of photosynthesis]

  光合成の進化は,地球環境との共進化である.約46億年前に誕生した地球において生命が誕生したのは約38億年前頃であると考えられている.微化石の炭素同位体比分析から光合成能を獲得した原始光合成生物は生命誕生から間もない約35億年前頃までに発生していたことが示唆されている.当時の地球環境は還元的であったと考えられており,原始光合成生物は硫化水素などを利用する嫌気性細菌であったと考えられる.約28億年前には地球上の酸素の蓄積が始まっていたことから,それまでに原始シアノバクテリアが発生したものと考えられる.
 現生の*光合成原核生物には,電子の移動に鉄硫黄クラスターを用いる光化学系(PSI型光化学系)をもつ絶対嫌気のヘリオバクテリア緑色硫黄細菌,フェオフィチン-キノン型光化学系(PSII型光化学系)をもつ偏性嫌気性の紅色細菌緑色糸状性細菌,さらにPSI型およびPSII型の両光化学系をもち酸素発生型の光合成を行うシアノバクテリアの3タイプがある.原始光合成生物から現生の3タイプの光合成原核生物がどのように系統発生したかについては不明であるが,光化学系の反応中心タンパク質の構造と機能の類似性から幾つかの仮説が提案されている.また, 16S rRNA 配列を用いた分子系統解析では,緑色糸状細菌が最も初期に分岐し,次いで緑色硫黄細菌,ヘリオバクテリアとシアノバクテリア,紅色細菌がそれぞれ発生したことが示唆されるが,ポルフィリン環合成関連酵素を用いた解析では,紅色細菌が最も初期に分岐し,緑色細菌,ヘリオバクテリア,シアノバクテリアがそれぞれ発生したことが示されている.分子系統解析では,解析に用いる分子によって結果が異なるため,さらなる検討が必要である.いずれの進化仮説や分子系統解析結果も,中立突然変異と淘汰,遺伝子の平行移動などでは説明できない不連続的な進化を伴っており,今のところ検証することができない.
 光合成生物の棲息環境やエネルギー獲得様式の多様化や地球環境変動に伴って,光合成色素系も進化した.原始光合成細菌において獲得されたクロロフィルの生合成系から,光の奪い合いによる競合関係によりバクテリオクロロフィルa, b, c, d, e, gなどバクテリオクロロフィルの多様化がもたらされたと考えられる.また,酸素発生型光合成には,水の酸化に必要なより高いエネルギーをもつ光を吸収可能な色素として,バクテリオクロロフィルの生合成中間体から派生したクロロフィルaが選択されたものと考えられる.酸素発生型の光合成では,クロロフィルa以外に, b, c (c1,c2,c3),d,が知られているが,これらの色素も酸素発生型光合成生物の進化の過程において,それぞれクロロフィルaもしくはクロロフィルa合成中間体から派生して合成され,主にアンテナ色素として機能するようになったものと考えられる.クロロフィルbについては,幾つかの系統内で独立に数度獲得されたという考え方と,進化の早い時期に一度だけ獲得され一部の系統において失われたという考え方がある.
 原始シアノバクテリアにより地球上に酸素が蓄積され地球表面が酸化的になり,酸素に耐性のない嫌気生物が減少したものと考えられる.一方,原始シアノバクテリアの一部は,約20億年前に発生した原始真核生物細胞内に共生し,細胞に必要なエネルギー生産を光合成によって営むオルガネラ(葉緑体)として成立した.分子系統解析以前は,藻類や高等植物にみられる色素系の異なる葉緑体の起源については,同じ色素系をもった祖先型シアノバクテリアがそれぞれ真核細胞内に共生して成立したものと考えられていた.しかし,藻類細胞の微細構造観察や分子系統解析により,現生する酸素発生型光合成生物の葉緑体は共通祖先生物から発生したと考える葉緑体の単系統説が一般的である.一方,葉緑体の宿主である核遺伝子は多系統である.このため,葉緑体にみられる色素系や微細構造の多様性は,共通祖先からの進化の過程において細胞の共生や,突然変異,淘汰などによってもたらされたと考えられる.
 C3, C4, CAMなど炭素代謝系も同様に,光合成生物が棲息する環境に適応した機能を獲得した生物が選択された結果,多様な代謝系が進化したものと考えられる.

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Last-modified: 2015-03-27 (金) 13:58:59 (1612d)

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