同位体効果[isotope effect]

  炭素,酸素,窒素,水素,硫黄などの元素には,同じ原子番号をもち,質量数が異なる同位体が存在する.このうち,放射線を発しない安定な同位体のことを安定同位体という.安定同位体の拡散速度や化学反応速度は質量数に影響されるため,様々な物理化学的過程を経ることにより,安定同位体の比率(安定同位体比)はわずかに変動する.これを同位体効果と呼ぶ.炭素,酸素,窒素,水素,および硫黄の安定同位体比は, δ13C,δ18O,δ15N,δD,およびδ34Sと表記され,標準物質に対する千分偏差(‰)によって次のように表される.

isotope effect1.png

RsampleRstandardは,サンプルと標準物質の安定同位体組成(13C/12C,15N/14N,18O/16O,D/H,34S/32S)である.
  植物において光合成の過程で生じる炭素安定同位体比の変動を同位体分別(carbon isotope discrimination)と呼び,Δ(ギリシャ文字の大文字のデルタ)で表記される.Δは光合成反応の基質である大気中の二酸化炭素のδ13C(δ13Ca)と植物体のδ13C(δ13Cp)から,次のように表される.

isotope effect2.png

δ13Ca値は上層大気でおよそー8‰であるが,植物の呼吸や,自動車の排気ガスなど化石燃料由来の二酸化炭素の影響がある場合には,これよりも低い値になる.Δに関与する過程には,二酸化炭素の拡散や水中への溶解,光呼吸, Rubiscoホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシラーゼによる二酸化炭素固定などがある. Rubiscoによる同位体効果は他の過程と比べると大きいため,まずPEPカルボキシラーゼによって炭素が固定されるC4植物よりも3植物の葉のΔは大きい.C3植物とC4植物の葉の平均的なδ13Cはー28‰とー14‰であるが,C4植物間ではC4植物サブタイプにより異なる.
 C3植物では,Δは水利用効率の指標として広く利用されており,Δが小さいほど水利用効率は高いと考えられる.ただし,葉の内部構造が異なる場合や気象条件が極端に異なる場合には,Δによる水利用効率の比較は不適切なことがある.また,Δと光合成速度の同時測定により,葉の内部における二酸化炭素の拡散抵抗(コンダクタンス)(葉肉抵抗)の推定が行われている.葉の有機物のδ18Oにも光合成過程が反映され,特に蒸散の影響が大きい.酸素と窒素の安定同位体比は植物が利用する元素の起源の推定に利用されており,葉の有機物のδ18Oには土壌水のδ18Oが反映され,窒素固定植物では植物組織の窒素安定同位体比δ15Nには大気由来の窒素割合が反映される.
 植物の有機物の炭素および窒素の安定同位体比については,元素分析計と安定同位体比測定用の質量分析計を結合したシステムによる半自動測定が行われている.大気の安定同位体比測定のためには,キャビティリングダウン分光分析装置(CRDS)が用いられる.また,波長可変半導体レーザー吸収分光法(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy,TDLAS)を用いることにより,高い時間分解能で迅速に光合成とΔを同時測定することが可能となり,C3植物における拡散抵抗(コンダクタンス)の環境応答や,C4植物における二酸化炭素濃縮機構の効率などが調べられている。


Last-modified: 2015-03-23 (月) 16:34:21 (1637d)

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