塩素(酸素発生)[chloride (oxygen evolution)]

 光合成酸素発生活性に必須の無機アニオン.酸素発生複合体の特定部位に結合していると考えられている.光化学系Ⅱ反応中心当たり1つの塩素イオン(Cl-)が結合しているとされるが,結合様式,複合体中における結合部位の位置などは不明.水溶液中の塩素イオンと交換可能なため, Cl-を含まない溶液中では酸素発生活性は低下する.マングローブなどの耐塩性の植物ではより高濃度のCl-を要求する.Cl-は機能的にBr-,I-,NO3-により代替されるが, F-, CH3COO-によっては代替されない.酸素発生機能に必要なCl-の濃度は光化学系Ⅱ表在性タンパク質の有無により大きく変化する.要求濃度は通常,≪1mMであるが, 18(16) kDaタンパク質を除くと数mM, 24 (23) kDaタンパク質を除くと数十mM, マンガン安定化タンパク質(33 kDタンパク質)を除くと数百mMに上がる.これらのタンパク質はCl-結合部位近傍の実効イオン濃度を高く維持する役割を果たしていると考えられている.同様に,低pHやカチオンの存在もチラコイド膜表面近傍の実効的なアニオン濃度を高めるので,見かけの要求CI-濃度は下がる.マンガン安定化タンパク質がない場合, Cl-はマンガンクラスターの安定な保持にも必要である.無処理の光化学系Ⅱ膜標品では溶液中に残存するCl-のため,完全なCl-除去には溶液のpHを一時的に上げるなどの処理が必要であるが,塩化ナトリウム処理などで18(16)kDaタンパク質と24(23)kDaタンパク質を除くと容易にCl-除去標品が得られる.Cl-除去標品ではマンガンクラスターの酸化はS2状態まで進行するが,S3への反応は阻害される.生成したS2状態のマンガンクラスターは磁気的な性質や酸化還元電位が異常となる. Cl-はS状態の進行に伴い酸素発生複合体に蓄積する正電荷を電気的に中和する役割があると推定されているが,正確な機能に関してはよくわかっていない.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:21