振電相互作用[vibronic coupling]

  ボルン-オッペンハイマー近似(断熱近似)では,分子の全波動関数を互いに独立した原子核の振動の波動関数と電子の波動関数(核の位置をパラメータとして含む)の積として取り扱う.しかし原子核の振動によって電子の波動関数の混合が生じる場合があり,これを振電相互作用と呼ぶ.2つの電子状態がある振動モードを介して振電相互作用をしている場合,その振動モードの振動数は,高エネルギー側の電子状態では押し上げられ,低エネルギー側の電子状態では押し下げられるので,振電相互作用の存在を検出することができる.振電相互作用は,2つの電子状態間の内部転換をひき起こすという意味で重要である.振電相互作用の強さは,その電子状態間の遷移結合次数行列と振電相互作用を媒介する振動モード(Lx)行列の積に比例するので,それらの対称性と位相によって決定される.光合成系カロテノイドにおいては,基底(1Ag-)状態と第一励起(2Ag-)状態の間に共役二重結合の全対称(ag)伸縮振動に媒介される強い振電相互作用が存在し,第一励起状態の極端に高いC=C伸縮振動数と,極端に短い寿命(10-11秒)の原因になっていることが知られている.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:36