窒素分配[nitrogen partitioning]

  窒素化合物の植物体内での様々な部位もしくは生体成分への分配比率もしくはその調節機構全般をさす.物理的な分配場所としては,窒素含量は一般的に根より葉で高く,光合成細胞内においては硝酸イオンなどの無機窒素は液胞に,タンパク質は葉緑体に多い.生体成分中ではタンパク質が主たる分配先であり,特に葉では光合成系タンパク質の占める割合が高い.シロザ葉では葉の窒素のうち,約55%が光合成系,8.5%が核酸,7%がリボソームへ分配されている.なかでもRubisco (ルビスコ)は地球上最も多量に存在するタンパク質とされ,光合成系タンパク質の約半分を占める.
 タンパク質や核酸などへの窒素分配比率の内訳は植物の生育環境や発達段階で大きく異なる.特に窒素供給量はその分配比を規定する重要な化学要因の一つである.窒素欠乏時には植物は最低限の代謝に必要な構成成分への分配を優先させ, Rubiscoやリボソームヘの分配を相対的に減少させるが,窒素栄養が補填された場合には,これらへの分配を優先させ,より高い光合成活性を得る.ダイズなどでは窒素供給が潤沢な場合,栄養組織貯蔵タンパク質(vegetative storage protein, VSP)を多量に蓄積させ,葉組織中に一時的な窒素プールをつくる例も知られている.C4植物の場合には,窒素栄養状態に応じホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼなどのC4光合成系タンパク質への分配比を変動させている.これら窒素分配を受ける側の遺伝子への情報伝達にはメチルジャスモン酸やサイトカイニンなどの植物ホルモンの関与も指摘されている.一方,窒素分配は植物の発達段階によっても大きく変化し,老化に伴い窒素を主にアミドの形で篩管を通じてソース器官からシンク器官へ転流させる.イネの場合,穂の窒素の約8割が他器官からの転流に由来し,その大部分が光合成器官からのものである.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:06