老化[senescence, aging]

  一般に,古くなった葉の紅葉(黄葉)として古くから知られているが,このような目に見える現象だけでなく,葉が展開終了する頃からの葉の最大光合成活性やタンパク質量,窒素量の減少など,様々な変化の表現に用いられる.葉の老化過程では,細胞成分の分解活性が高くなり,タンパク質やクロロフィル,核酸などが分解され,その分解物は成長中の器官に転流される.自然条件下では,タンパク質を構成する窒素の供給が制限されがちなので,上部の葉によって被陰された古い葉の老化は,窒素を光条件のよい新しい葉へ転流し再利用することにつながり,個体の物質生産の向上に役立つ.このように,葉の老化は,単に古くなった細胞,器官の機能低下としてだけではなく,積極的な意義をもった機構として捉えられている.
 老化過程では,全RNA量や光合成系(特に二酸化炭素固定系)のタンパク質の遺伝子発現量が低下する一方,物質の分解に関わる酵素遺伝子の発現量は増加する.老化で誘導される遺伝子の中には,暗誘導遺伝子と共通するものもある.また,葉緑体チラコイド膜の乱れプラストグロビュルの増加,葉緑体の大きさの減少などの葉緑体の老化がみられ,さらに老化が進むと,核の構造の変化,葉緑体数の減少がみられる.
 葉の老化は,一般的に木本植物に比べ,草本植物で早い.同じ植物種では,窒素などの栄養の供給が少ないほど,また生育光強度が強いほど早いというように生育環境の影響を受けやすい.つる植物であるアサガオを用いて,古い葉ほど光条件が良く新しいほど光条件が悪いという,群落とは逆の状態にすると,古い葉ほど窒素含量が多くなる.このように葉の老化は,単に時間経過としての葉齢のみで制御されているわけではなく,様々な因子によって制御されている.切り葉に植物ホルモンを添加する実験や,照射光の量や質を変えた実験により,サイトカイニン(老化の抑制),エチレンアブシジン酸(老化の促進)のような植物ホルモンや,フィトクロム,光合成産物量を感知する系が,老化を制御しうることが示されている.生殖成長期にある植物において,実など将来大きなシンクになる部分を除去し続けると老化の抑制がみられること,植物個体の一部を被陰すると老化の早さが変わることなどから,葉の老化はその葉が置かれた環境のみで制御されるのではなく,個体全体として制御されていると考えられる.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:09