葉緑体の運動[chloroplast movement]

 多くの植物において葉緑体が細胞内で動くことが知られており、19世紀から研究の歴史がある。細胞の形、葉緑体の形、1細胞中にある葉緑体の数などに従って様々なタイプの運動が記載されている。運動の様式は、葉緑体が原形質流動に乗って受動的に動く場合と、原形質流動や他の細胞小器官とは独立に動く場合とに大別できる。後者の運動は葉緑体に備わった独自の運動装置によると考えられる。一方、車軸藻類など、葉緑体が細胞膜直下に固定されて動かない例もある。
 葉緑体の運動が定常的に見られる例(緑藻類イワヅタなど)、運動パターンが概日リズムを示す例(緑藻類アオサ)、運動が外界からの刺激によってひき起こされる例がある。光によってひき起こされる葉緑体光定位運動は、光受容体、運動の仕組み、光合成との関係などについて最も詳しく調べられている。また、生物学的意義は明らかになっていないが、水ストレス多肉植物)、接触などの機械的刺激(珪藻類、コケ類、シダ類)、アミノ酸や重金属などの化学的刺激(水棲単子葉植物)によっても運動がひき起こされる。
 一般に葉緑体の運動はアクチンに依存する。藻類、コケ類などでは微小管に依存した運動も知られている。葉緑体の運動の方向性は、アクチン繊維や微小管の極性およびそれらと相互作用するモータータンパク質(ATPase活性を持つ)の運動極性によって決定されると予想されるが、これら細胞骨格タンパク質がどのようにして葉緑体を動かすのか、それをどのようなシグナルが制御しているのかについては未解明の問題が多く残っている。

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:29