葉緑体SRP[chloroplast SRP]

  葉緑体内には,その進化的起源がシアノバクテリアに近い原核生物だったことを反映して,原核生物時代のタンパク質輸送システムが保存されている.大腸菌には,真核生物の分泌タンパク質の小胞体移行に関わるシグナル認識粒子(SRP, signal recognition particle)のホモログが存在し, Ffhと呼ばれるタンパク質と4.5SRNAから成る.エンドウ葉緑体のストロマには54kDaのFfhホモログcpSRP54が存在し,43 kDa のタンパク質cpSRP43と葉緑体SRP (cpSRP)を形成し,アンテナ色素複合体タンパク質(LHCP)のチラコイド膜への挿入に関与している.興味深い事に、葉緑体SRPにはRNA成分が存在しないが、cpSRP43の立体構造が判明し、その全体構造や荷電状態がSRPのRNA成分と類似している事が明らかとされている。さらにcpSRP43上にLHCPの認識部位が存在する事が報告されている。大腸菌には真核生物のSRP受容体ホモログとしてFtsYが存在し,エンドウやシロイヌナズナの葉緑体チラコイド膜には32 kDa のFtsYホモログ(cpFtsY)が存在する.アンテナ色素複合体タンパク質などのチラコイド膜への挿入にはGTPの加水分解が必要であるが,このGTP要求性はcpSRP54やcpFtsYがGTP結合タンパク質としてGTP加水分解活性を有するからと考えられている.
 大腸菌では, Secタンパク質から成るトランスロケーターとともにYidCと呼ばれる細胞質膜タンパク質が,タンパク質の細胞質膜への挿入を媒介する.YidCのホモログは酵母ミトコンドリア内膜ではOxalpと呼ばれ,タンパク質のマトリクス側からの内膜への挿入および内膜透過を媒介する. YidC/Oxa1pホモログはシロイヌナズナの葉緑体チラコイド膜にも存在し, ALB3と呼ばれる. ALB3は集光複合体タンパク質のチラコイド膜への挿入に関わることから, cpSRPが関わる経路のトランスロケーター(膜透過装置)として働く可能性が考えられている.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:52