電子常磁性共鳴[electron paramagnetic resonance(EPR)]

  遊離基や遷移金属元素を含む常磁性体における電子の磁気モーメントによる電磁波の吸収のこと. 1944年ロシアのZavoiskyが,約1 GHz の周波数でマンガンの電子常磁性共鳴を発見した.その後は遷移金属についての研究,ついで不対電子をもつ有機ラジカルにも広まった.原理は核磁気共鳴と同じである.静磁場H0のもとで電子磁気モーメントとの相互作用は電子スピンS,核スピンIi(iは電子スピンと相互作用している核の番号)とするとスピンハミルトニアンは次式で表される.
 
 H=gβH0・S+Σgniβn H0・Ii+AiIi・S}
 第1項は電子スピンのZeeman効果,第2項は核スピンのZeeman効果,第3項は電子スピンと原子核の超微細構造相互作用で,電子スピンが1個以上の原子に広がっている場合をも含む.このスピンハミルトニアンで決まるエネルギー準位間に電磁波を静磁場と垂直方向にかけると,エネルギー差に一致する周波数で選択則に従って共鳴吸収が観測される.第1項のみのときは1本であるが,第2項以降の核磁気モーメントとの相互作用を表す項により,静磁場の掃引とともに数多く共鳴線が観測される.線幅はスピン-スピン緩和時間T2の逆数で,また吸収の飽和はスピン格子緩和時間T1によって決まる.衛星放送の周波数X-バンド(10 GHz)がよく使用され,分光器の感度も最もよい.現在L-バンド(1GHz)から周波数の高いW-バンド(95 GHz)までが市販されている. NMRとの大きな違いは,電子スピンは広がりが大きく相互作用が複雑であるため,g因子が色々な値をとることである.光合成系では,酸化型P700のEPRが,光吸収での700 nmの褪色と同時に現れることから最初に発見された.反応中心クロロフィルのほかに,チロシン,キノン,シトクロム,マンガン,非ヘム鉄も観測される.光合成は電子移動が主役であるのでEPRは有力な研究手段となっている.


Last-modified: 2015-03-23 (月) 16:38:02 (1610d)

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