ATP合成酵素[ATP synthase]

  光合成細菌の原形質膜や葉緑体のチラコイド膜で行われる光リン酸化反応,ミトコンドリア内膜と細菌の原形質膜で行われている酸化的リン酸化反応によってATPの合成を触媒する酵素.光化学反応系が水を分解し電子をNADPまで伝達するとき,チラコイド膜のストロマ側からルーメン側に水素イオン(H+)が輸送される.また,呼吸鎖の電子伝達反応では,NADHから電子伝達系を介して酸素に電子が渡されるときに,ミトコンドリアの場合にはマトリックス側から内膜・外膜間隙に,細菌の場合には細胞質からペリプラズムに向かって水素イオン(H+)が輸送される.このようにして,生体膜を介してH+の電気化学的な勾配が形成されると,H+はATP合成酵素の膜貫通部分を通って反対側に移動する.このときATP合成酵素は, ADPとリン酸からATPを合成する.このため, ATP合成酵素は,H+の輸送を介して電子伝達反応とATPの合成を共役させる酵素という意味で共役因子(coupling factor,あるいはFoF1)とも呼ばれる.
 ATP合成酵素は,生体膜に埋め込まれたFo部分(エフオーと読む.oはミトコンドリアのATP合成酵素がオリゴマイシン(oligomycin)感受性であることに由来する)と膜表在性のF1部分から成る.Fo部分はH+の通り道であり,葉緑体の場合には4種類のサブユニット(Ⅰ, Ⅱ, Ⅳ各1個と14個のⅢからなる),ミトコンドリアや細菌では3種類のサブユニット(a1b2c8~13)で構成されている.葉緑体のサブユニットⅠは,ミトコンドリアなどのaに,サブユニットⅠとⅡはbにそれぞれ対応する.葉緑体のサブユニットⅢ,ミトコンドリアや細菌のサブユニットcは,いずれも2本のαヘリックス構造から成る膜タンパク質で,C末端側のヘリックスのほぼ中央部には,H+の輸送に直接関与しているアスパラギン酸またはグルタミン酸が存在する.このサブユニットは,8~15個(この数は生物種によって異なることが明らかになっている)が集まって膜内にリング構造を形成している.F1部分はα3β3γ1δ1ε1というサブユニット構成で,βサブユニットにはATP加水分解や合成の際の触媒部位が存在する.一方,αサブユニットはβサブユニットと構造のよく似たタンパク質であり,やはりヌクレオチド結合部位をもっているが,触媒活性はもたない.このヌクレオチド部位へのヌクレオチド(主にADP)の結合が酵素活性の調節に関与していると考えられている.1分子のATP合成酵素には3個の触媒部位があり,これらは互いに強い協同性をもって順番に触媒反応を行っている.ATP加水分解反応の研究によって,この順番に起こる反応は,分子の中央に位置しているγサブユニットの回転と共役していることが明らかにされた.葉緑体のATP合成酵素はチオレドキシンによる還元によって活性を調節されるチオール調節酵素であり,この調節に関与するシステインはγサブユニットにある.暗所で光合成電子伝達系からの還元力の供給が不十分になるとこのシステインは酸化されてジスルフィド結合を形成し、ATP合成酵素のATP加水分解活性を阻害する.

ATP synthase.png

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Last-modified: 2015-03-26 (木) 11:36:21 (1641d)

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