#freeze
*Rubisco [#w636b543]
  ribulose 1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase (リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ)の通称.高等植物や緑藻のRubiscoは分子量約5.5万の大サブユニット(LS)8個と約1.5万の小サブユニット(SS) 8個から構成されている.LSは約470のアミノ酸残基をもつ1本のポリペプチドで,構造上N末端から150番目までのN末端ドメインとそれ以降のC末端ドメインに分かれている.LSは2個が数字の69のようなLS2ダイマーを構成している.それぞれのLSの[[リブロース1,5-ビスリン酸]](RuBP)結合部位はC末端ドメインに存在する.このRuBP結合部位は,LS2ダイマー中のもう一方のLSのN末端ドメインと協同して触媒部位を構成する.SSはLS2ダイマー4つの間にできる隙間,上下8個所に結合する.SSは植物RubiscoのLSが水溶性になって触媒作用を示すために必須のサブユニットである.&br; LS8SS8構造をもったRubiscoが触媒反応を示すには,pH8付近でのCO&subsc(2);とMg&supsc(2+);による“活性化"というステップが必要である.活性化CO&subsc(2);はホウレンソウRubiscoの場合,LSのN末端から201番目のリジン残基のε-アミノ基に結合してカルバメートイオンをつくる.このカルバメートイオンがMg&supsc(2+);を結合してはじめて, Rubiscoは触媒能をもつ.これは,カルバメートにイオン結合したMg&supsc(2+);が反応に関与するためである.活性化に必要なCO&subsc(2);は固定されるCO&subsc(2);とは異なる.植物などでは、Rubisco活性化は[[Rubiscoアクチベース]]により促進される。&br; 活性化したRubiscoには,まずRuBPが結合する.RuBPの3位の炭素に結合したH&supsc(+);が引き抜かれ,RuBPは2,3-エンジオール型となる.この2位の炭素がおそらくδ&supsc(-);となり,反応中心近くでδ&supsc(+);となったCO&subsc(2);の炭素と結合する.この反応で生じる2-カルボキシ3-ケトアラビニトールビスリン酸は反応中のRubiscoから抽出されて構造決定されている.水和型2-カルボキシ3-ケトアラビニトールビスリン酸はC2とC3の炭素間結合が解裂し,2分子の3-ホスホグリセンリン酸(PGA)が生成する.この一連の反応をRuBPのカルボキシラーゼ反応という.&br; RuBPの2,3-エンジオールはO&subsc(2);とも反応する.この場合,反応中間物は2-ペルオキシ3-ケトアラビニトールビスリン酸であると考えられている.カルボキシラーゼ反応と同様にこの反応中間物はC2とC3の炭素間で解裂を受け, PGAと2-ホスホグリコール酸が1分子ずつ生成する.この反応をRuBPのオキシゲナーゼ反応という.2-ホスホグリコール酸のリン酸基が加水分解されて生じるグリコール酸は[[グリコール酸回路]]([[光呼吸]])で代謝される.&br; 植物RubiscoのCO&subsc(2);とO&subsc(2);に対する'''K'''&subsc(m);('''K'''&subsc(cm);と'''K'''&subsc(om);)はそれぞれ10~15 μMと250~450 μMである.Rubiscoは1 mg当たり最大で2.9 μmol min&supsc(-1); でCO&subsc(2);固定反応を行う.この速度はLS1分子が1秒間に3.3回反応することを意味する.一般の酵素が触媒部位当たり1秒間に100~1,000回反応することと比べると, Rubiscoの反応速度の低さが際だっている.植物はこのRubiscoの反応の非能率を, Rubiscoを葉の全タンパク質の30%にも達するほど多量に合成して克服している.&br; Rubiscoのカルボキシラーゼ反応とオキシゲナーゼ反応は互いに拮抗反応である.'''V'''&subsc(cmax);と'''V'''&subsc(omax);をそれぞれカルボキシラーゼ反応とオキシゲナーゼ反応の最大速度とすると,それぞれの反応速度('''v'''&subsc(c);と'''v'''&subsc(o);)の間には次のような関係が成立する.&br; '''v'''&subsc(c);/co={('''V'''&subsc(cmax);/'''K'''&subsc(cm);)/('''V'''&subsc(omax);/'''K'''&subsc(om);)}×{[CO&subsc(2);]/[O&subsc(2);]}ここで'''V'''&subsc(cmax);/'''K'''&subsc(cm);はカルボキシラーゼ反応の反応特異性,'''V'''&subsc(omax);/'''K'''&subsc(om);はオキシゲナーゼ反応の反応特異性である.両反応の特異性の比,('''V'''&subsc(cmax);/'''K'''&subsc(cm);)/('''V'''&subsc(omax);/'''K'''&subsc(om);)を比特異性(relative specificity, τ,Ω,あるいは'''S'''&subsc(rel);という記号が使われる)という.'''S'''&subsc(rel);値が高いほど,そのRubiscoはカルボキシラーゼ反応を好むことを意味する.原始紅藻のRubsicoで230~240,高等植物のRubiscoで90~95,緑藻の酵素では60~65, [[シアノバクテリア]]の酵素で40前後,SSをもたずLSだけで機能するある種の[[光合成細菌]]の酵素では10前後の'''S'''&subsc(rel);値である.空気と平衡にある水中の溶存CO&subsc(2);とO&subsc(2);濃度は25℃でそれぞれ11 μM, 256 μMである.この条件では95の'''S'''&subsc(rel);値をもつ高等植物Rubiscoでは上式から,カルボキシラーゼ反応はオキシゲナーゼ反応の4倍の速度で進行することになる.この速度比は緑藻Rubiscoでは2.3倍,シアノバクテリア酵素では1.7倍,SSをもたない光合成細菌の酵素では0.4倍となる.&br; RubiscoはLSのアミノ酸配列から、大きく3つのformに分類される。form Iは主に植物、藻類、シアノバクテリアが有するLS8SS8型Rubisco で、form IIはSSをもたない光合成細菌のLS2~6型Rubiscoである。form IIIは、非光合成生物であるアーキア由来のRubiscoで、form II同様にLSのみから構成される。[[還元的ペントースリン酸回路]]をもたないアーキアでは、アデノシンモノリン酸のリボース骨格から合成されたRuBPがRubiscoへ供給されると予想されている。超好熱性アーキアのRubiscoには,95℃で300の'''S'''&subsc(rel);値を示すものも存在する.詳細な分子系統学的解析から、全てのRubiscoの共通祖先は、メタン産生アーキアのRubiscoであると予想されている。一方で、アーキアやバクテリアが有するLSと相同性を示すがRubiscoとしてのカルボキシラーゼ、オキシゲナーゼ両反応を触媒することができないRubisco-like proteinが多くの非光合成真正細菌に存在する。枯草菌においては、Rubisco-like proteinは、Rubiscoカルボキシラーゼ反応の初発段階であるRuBPからのH&supsc(+);引き抜き反応と類似した触媒反応を触媒し、メチオニン代謝系においてエノール化酵素として機能している。


** 関連項目 [#if72ced0]
-[[Rubiscoアクチベース]]
-[[Rubiscoシャペロン]]
-[[Rubisco分解]]
-[[組換えRubisco]]

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