コラム陽だまり 第23回

文献調査

ドイツ

一昨年でしたか、日独の二国間セミナーがフライブルクであってドイツに行った時のことです。ドイツ側のオーガナイザーから、フライブルクの空港は不便だから、経由地のフランクフルトからは列車で移動するように、とアドバイスがあり、日本側の参加者はそろって列車に乗りました。途中、カールスルーエを通った時、日本側のオーガナイザーのTさんと「どうもカールスルーエという名前には聞き覚えがあるけれども」と話している内に、「そうだ、萩尾望都の『トーマの心臓』の舞台シュロッターベッツのある町ではないか」と意見が一致して、二人で盛り上がったのでした。

さて、帰国後しばらくしてTさんから「文献を読み直してみましたが、『ハイデルベルグとカールスルーエの間のどこか、ライン川の近く』にシュロッターベッツがあったとのことです」との報告がありました。日頃Tさんの研究の勘所を押さえた進め方には感銘を受けていましたが、この、きちんと元文献にあたるという姿勢こそが素晴らしい研究を生み出しているのだろうと納得したものです。

もっともこの手の文献調査だけなら、僕にも実績があります。「光合成とはなにか」を書いた時に、同じ萩尾望都の『11人いる』に登場するクロレラを共生させたガンガという人物について紹介しました。クロレラとの共生によって食物を食べなくてもよくなったのかどうかを確認しようとして、作中でガンガが食事をしている描写、もしくはガンガだけが食事をしていない描写を探したのですが見つかりません。しかし、文献を精読することにより、食事の用意の時に皿が11枚配られるという記述を最後に見つけて、ガンガもちゃんと食事をしていたことが確認されたのでした。

自分が学生の頃の同級生を見ていても、これまで指導してきた学生を見ても、優秀な学生ほど、気軽に調べ物をします。日常会話の中に、ちょっと使い分けが難しい言葉が出てくるとその場でさっと辞書を引くといった具合です。逆に、そういったことを面倒くさがる学生は、少なくとも研究者としては大成しない気がします。ましてや、何事につけても「面倒くせー」が口癖のような学生は、普通の社会人としても落ちこぼれそうで心配です。とは言え、せめてお昼前には研究室に来るように何度口を酸っぱくして言っても無駄だった学生が、お金を稼ぐ立場になると毎朝きちんと職場に行っている例を何度も見ているので、この辺りは「学生」という身分に対する甘えなのかもしれません。卒業後の成長に期待しましょう。

2013.09.17(文:園池公毅/イラスト:立川有佳)