チラコイドタンパク質の輸送[thylakoid proteintransport]

  核ゲノムにコードされたチラコイドタンパク質は,細胞質ゾルで合成されたのち,まずトランジットペプチド中のストロマ移行シグナルに従って,包膜を通過してストロマに移行する.次にトランジットペプチドまたは成熟体部分に書き込まれたチラコイドヘの局在化シグナルに従って,チラコイドに移行する.
 チラコイドヘの移行経路は,複数存在することが知られている.原核生物のSecタンパク質ホモログがトランスロケーター(膜透過装置)として関与する経路により移行する過程は,ストロマのATPを必要とし,チラコイド膜のΔpHにより促進される.原核生物のTATタンパク質ホモログがトランスロケーターとして関与する経路により移行する過程は,チラコイド膜のΔpHを必要とする.原核生物のSRPホモログ(葉緑体SRP)が関与する経路に移行する過程は,ストロマのGTPを必要とする.これらの移行経路は、基本的に原核生物由来のホモログ因子に依存するが、SRPのRNA成分がcpSRP43タンパク質に置き換わるなど、進化の過程で葉緑体特有の因子が新たに加わっている場合もある。このほかに, ATP, GTP, ΔpHなどのエネルギーやチラコイド上のトランスロケーターを必要とせず自発的にチラコイド膜に挿入される場合もある.
 葉緑体ゲノムにコードされたチラコイドタンパク質(葉緑体タンパク質)はストロマで合成され,チラコイドヘ移行する.チラコイドに移行する場合は,核ゲノムにコードされたタンパク質の場合と同様, Secタンパク質ホモログに依存する経路,TATタンパク質ホモログに依存する経路,葉緑体SRPホモログが関与する経路,自発的にチラコイド膜に挿入される経路があるものと考えられる.これらの場合,チラコイド膜上に結合したリボソーム上で翻訳されつつ,チラコイド膜への挿入,膜透過が同時に進行することも多い.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:46