光合成の励起エネルギー移動[excitation-energy transfer in photosynthesis]

  光合成色素系での光の吸収から反応中心までの励起エネルギーの運搬過程をさす.この過程で最も重要なことはエネルギー移動機構である.現在知られている限りでは,エネルギー移動はクーロン相互作用であり,電子交換相互作用は働いていないとされる.さらにエネルギー移動機構は,エネルギー供与体とエネルギー受容体の相互作用の強さに依存し,それらは弱い相互作用,中間的な相互作用,強い相互作用に分類される.弱い相互作用はいわゆる*フェルスター型の励起エネルギー移動,強い相互作用は励起子型の励起エネルギー移動である.中間的な相互作用は解明が進んでいない.色素分子間の相互作用の強さは色素分子の空間的な配置に強く依存するため,光合成色素系でのエネルギー移動を論じるためには,原子レベルの解像度をもつ結晶構造解析が不可欠の情報となる.しかし,結晶構造は色素分子の周囲のアミノ酸の影響などを考慮した量子化学計算や,超高速分光や配向試料に対する偏光を用いた分光法などのデータを総合して色素分子の電子状態を知り,そのうえで空間的な配向や距離をも考慮した相互作用の見積もり,実測されるエネルギー移動の時定数などから,エネルギー移動機構を論じることが求められる.
 光合成色素系でのエネルギー移動過程として詳細な解析がなされているのは,紅色細菌のLH2フィコビリンタンパク質であり,前者は励起子型,後者はフェルスター型の励起エネルギー移動の典型例とされる.また,カロテノイドからクロロフィルへのエネルギー移動は,光学的に許容の一重項第二励起状態が関与する場合でも,従来提唱されていた電子交換相互作用ではなくクーロン相互作用であることが最近になって明らかにされた.酸素発生型光合成生物のアンテナ系でのエネルギー移動過程は,その分子間距離が10Å程度と近いために,弱い相互作用の範疇には入らず,解析が遅れている.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:04