拡散抵抗(コンダクタンス)[diffusive resistance (conductance)]

  分子の拡散に対する抵抗を表す一般用語.光合成の基質であるCO2は表皮の気孔を通って葉内に拡散し,細胞間隙を通って葉肉細胞の細胞壁, 細胞膜,細胞質,葉緑体包膜を通過してストロマに入り,最終的にRubiscoによって固定される.このような光合成におけるCO2拡散において,大気から葉緑体ストロマまでのCO2の流れを電流に,CO2濃度を電圧にたとえると,葉の光合成速度をオームの法則と同型の数式で表現することができる.大気から葉緑体までのCO2の拡散経路は,大気-境界層-気孔-細胞間隙-細胞壁-細胞膜-細胞質-葉緑体包膜-葉緑体ストロマである.大気のCO2濃度をCa,葉の表面のCO2濃度をCls,気孔腔のCO2濃度をCst,細胞間隙内CO2濃度をCiとすれば,葉の光合成速度Aは,

A=(Ca-Cls)/rb=(Cls-Cst)/rs=(Cst-Ci)/r'ic

と表現することができる(rb境界層抵抗,rsは気孔抵抗,ricは細胞間隙抵抗と呼ばれる.境界層抵抗と気孔抵抗をまとめて葉面抵抗と呼ぶこともある).細胞壁から葉緑体ストロマまでの拡散抵抗は葉肉抵抗(別名,細胞壁抵抗,内部抵抗)と呼ばれ,rm(別名, rwri)と表記される.抵抗の逆数がコンダクタンスであり,シンボルとしてはgが用いられる場合が多いので、葉肉コンダクタンスはgmと表記される.このうち光合成の律速要因として重要な抵抗は気孔抵抗と葉肉抵抗である.
 水蒸気は気孔腔から大気までCO2と逆の経路をたどって拡散するので,蒸散速度もオームの法則と同型の数式で取り扱うことができる.気孔抵抗や細胞間隙(正確には気孔腔)のCO2濃度は、蒸散速度と光合成速度と葉温度の測定から計算することができる.一方で,葉肉抵抗や葉緑体内のCO2濃度が推定できるようになったのは,1990年代に入ってからである.現在,複数の測定法が提案されているが、その中でも、炭素安定同位体法が最も正確に葉肉抵抗や葉緑体内のCO2濃度を評価できると考えられている.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:15