葉緑体タンパク質の局在化シグナル[transportsignal of chloroplast protein]

  葉緑体タンパク質の一部は葉緑体ゲノムにコードされているが,大部分のタンパク質は核ゲノムにコードされている.核ゲノムにコードされた葉緑体タンパク質の多くは,N端にトランジットペプチドと呼ばれるアミノ酸配列が付加した前駆体として細胞質ゾルで合成され,葉緑体に移行,トランジットペプチドはストロマのシグナルペプチダーゼ(ストロマプロセッシングペプチターゼ)により切断,除去される.トランジットペプチドは,葉緑体への移行(ターゲティング)を担う葉緑体ターゲティングシグナルと,その後の葉緑体内での各区画への仕分け(ソーティング)に必要な情報を含む.トランジットペプチドは多くの場合,2枚の包膜を通過してストロマに移行するためのシグナルとして働くが,チラコイド内腔(ルーメン)のタンパク質の場合は,トランジットペプチドの前半がストロマ移行シグナルとして,後半がチラコイド内腔への移行シグナル(チラコイド移行シグナル)として働く場合が多い.チラコイド内腔への移行シグナルは,チラコイド内腔でシグナルペプチダーゼにより切断,除去される.内包膜やチラコイド膜のタンパク質の場合は,トランジットペプチドによりストロマに導かれるが,各膜系への挿入を指定するシグナルは成熟体部分に書き込まれている場合が多い.
 葉緑体ゲノムにコードされたタンパク質はストロマで翻訳されるが,チラコイド内腔に移行する場合は,分泌シグナルによく似たシグナル配列がN端に付加した前駆体として合成され,チラコイド内腔でシグナルペプチダーゼにより切断,除去される.チラコイド膜に組込まれる場合は,膜への挿入を指定するシグナルは成熟体部分に書き込まれている場合が多い.
 トランジットペプチド中のストロマ移行シグナルは,長さが30~100アミノ酸残基以上と多様である.セリンやスレオニンに富み,酸性アミノ酸残基が少ないという特徴があるものの,共通するコンセンサス配列は見いだせない.トランジットペプチド後半に現れるチラコイド内腔への移行シグナルは,疎水性アミノ酸セグメントを有し,原核生物や真核生物の分泌タンパク質のシグナルペプチドに似ている.膜タンパク質の成熟体部分に書き込まれている局在化シグナルは,膜を貫通する疎水性セグメントの内部および周辺に存在することが多い.
 葉緑体へ局在化するタンパク質のうち包膜に運ばれるタンパク質の中には、トランジット配列を持たず明確な成熟体のアミノ末端部分にも局在化シグナル様の配列が見当たらないものも存在している。また、葉緑体への特殊な局在化経路として、ゴルジ体を経由する経路が存在するという説もあるが、その局在化シグナルの詳細は分かっていない。


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:21