葉緑体チラコイド膜に局在するATP合成酵素は,葉緑体(chloroplast)由来であることを意味する“C"を付してCFoCF1と呼ばれる.分子複合体の基本的な構造は,ミトコンドリア内膜由来のものや細菌の原形質膜由来のものと同一である.発見の経緯の違いから,サブユニットの命名法が異なり,Fo部分の4種類のサブユニットは,ギリシヤ数字を用いてⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳと呼ばれる.サブユニットⅠ,Ⅱはともにミトコンドリアや細菌由来のATP合成酵素Fo部分のbサブユニットに相当し,Ⅲはcサブユニット,Ⅳはaサブユニットに相当する.サブユニットⅡは核遺伝子にコードされ,翻訳後葉緑体に輸送されるが,Ⅰ,Ⅲ,Ⅳは葉緑体遺伝子にコードされており葉緑体内で生合成される.一方,F1部分を構成する5種類のサブユニットのうち,α,β,εは葉緑体遺伝子に,γとδは核遺伝子にコードされている. CFoCF1の活性は膜ポテンシャルが一定以上形成されると発現する.さらにCFoCF1はチオール調節酵素であり,酸化還元状態によっても活性が調節される.光照射下では光化学系Iから電子を受け取るフェレドキシンによってチオレドキシンが還元される。還元型のチオレドキシンはCF1の回転軸であるγサブユニットのジスルフィド結合を還元する.γサブユニットが還元されると,酵素は活性型になる.このジスルフィド結合は,チラコイド膜内外のpH差が大きくなると還元されやすくなることが知られている.