#freeze
*クロロフィル[chlorophyll] [#v4f18bbd]
  葉緑素. chloro-phyllの名称は, PelletierとCaventou (1818)が「葉緑(leaf green)」の素をさす語として,ギリシア語のchloros (緑の)とphyllon (葉)からつくった.クロロフィルは光合成生物に存在するMgを配位した環状[[テトラピロール]]色素の総称で,地球上で最も豊富に存在する金属錯体.微量色素も含めると天然に50種以上存在する.17世紀末にLeeuwenhoekは葉肉中に緑の小さな玉があることを, Grewは葉をアルコールに浸すと緑の溶液になることに気づいた. 1864年にStokesは分光学的手法により緑葉のクロロフィルが2種類の色素から成ることを発見.1880年にHoppe&supsc(-);SeylerはクロロフィルがMgを含み基本骨格が血色素と酷似していることを, 1881年に[[Engelmann>エングルマン]]はクロロフィルが光合成色素であることを示した. 1907年にTswett (奇しくもロシア語で“色"または“花"の意)は,カラムクロマト法により2種類のクロロフィルを分離し,クロロフィリンαおよびβと命名(後にWillstätterがクロロフィル'''a'''およびbに改称). 1915年にWillstätterはクロロフィルの環構造決定の業績によりノーベル化学賞を受賞. 1928年にFischerはフィトールの構造を決定. 1965年にWoodwardらはクロロフィル'''a'''の全合成の業績によりノーベル化学賞を受賞.&br; クロロフィルは光合成の[[明反応]]で機能する重要な分子で,光エネルギーを捕捉し,電子エネルギーに変換する.多くの場合,クロロフィルはタンパク質と非共有結合的に複合体をつくって光合成膜中に存在する.[[シアノバクテリア]]と[[プロクロロン]]を除く原核光合成細菌(狭義の[[光合成細菌]])に存在するクロロフィルは[[バクテリオクロロフィル]]と呼ぶ.クロロフィルの骨格は[[ポルフィリン]],[[クロリン]](ジヒドロポルフィリン)と[[バクテリオクロリン]](テトラヒドロポルフィリン)である.クロロフィルは[[ヘム]]とは異なり,シクロペンタノン環Vをもつ.ポルフィリン骨格を有するのが[[クロロフィル '''c'''>クロロフィルc]]など,クロリン骨格を有するものが[[クロロフィル'''a'''>クロロフィルa]],[[b>クロロフィルb]], [[d>クロロフィルd]]および[[バクテリオクロロフィル'''c'''>バクテリオクロロフィルc]], [[d>バクテリオクロロフィルd]],[[e>バクテリオクロロフィルe]]などである.バクテリオクロリンの代表が[[バクテリオクロロフィル'''a'''>バクテリオクロロフィルa]]で,バクテリオクロリンの特殊なものが[[バクテリオクロロフィル'''b'''>バクテリオクロロフィルb]]とgである.クロロフィルのMgが外れて2個の水素で置き換わった[[フェオフィチン]]または[[バクテリオフェオフィチン]]は,[[光化学系Ⅱ]]型の反応中心で一次電子受容体として機能する.クロロフィルは[[フィトール]]などの長鎖アルコールとエステル結合している(クロロフィル '''c'''には長鎖アルコールがない).&br; 酸素発生型光合成を行う生物にはクロロフィル'''a'''が常に存在するが,その他のクロロフィルの分布は生物群に依存する.[[高等植物]]や[[緑藻]]などはクロロフィル'''a'''とbを,[[褐藻]].[[珪藻]].[[クリプト藻>クリプト植物]].[[渦鞭毛藻>渦鞭毛植物]]などはクロロフィル'''a'''とc類をもつ.[[シアノバクテリア]]はクロロフィル'''a'''のみ(最近発見された,ホヤに共生するシアノバクテリア様のAcrayocroris marinaは[[クロロフィル'''d'''>クロロフィルd]]ももつ).クロロフィルのほとんどは[[集光性色素]]として機能し,一部が[[電荷分離]].[[電子移動]]に関与する[[反応中心クロロフィル]]として働いている.クロロフィルは赤と青紫の光を強く吸収するため緑色を呈する(バクテリオクロロフィルは吸収帯が異なるため淡青紫色).緑色植物では,クロロフィルの深い緑に[[カロテノイド]]や[[アントシアニン]]の色が隠れているが,紅葉などでクロロフィルが減少するとそれらの色が見えてくる.逆に藻類では,[[フィコビリン]]やカロテノイドによってクロロフィルの色が隠されている場合が多い.クロロフィルは主として葉や茎に存在するが,バラ,カーネーション,アジサイ,ランでは花にクロロフィルを含む品種がある.&br; クロロフィルは水に不溶であるが,アセトン,アルコール,エーテル,クロロホルムなどに可溶.抽出にはアセトンやメタノール(およびその混液)がよく使用される.弱酸処理によりマグネシウムが外れ,やや褐色味のある[[フェオフィチン]]となる.強酸処理ではフィトールも脱離し、[[フェオホルビド>フェオホルビドa]]となる.アルカリ処理ではフィトールとメチルアルコールが遊離し,水溶性のクロロフィリンのアルカリ塩を与える.クロロフィルのエーテル溶液に30%程度のメタノール性水酸化カリウムを添加すると,シクロペンタノン環Vのエノール化により溶液界面が褐変し(クロロフィル'''a'''では黄色,bでは赤褐色),さらに環Vが開裂して緑になる(Molischのphase test).クロロフィル'''a'''はNatural Green 3 として石鹸や化粧品に使用されているが,不安定なため通常は安定なクロロフィル誘導体([[銅クロロフィリン]]など)が,化粧品・ワックス・油・食品などの着色剤として,歯みがき・チューインガムなどの口腔防臭剤として,胃薬などの医薬成分として配合されている.


** 関連項目 [#if72ced0]
-[[クロロフィルの吸収スペクトル]]
-[[クロロフィルaの生合成]]
-[[クロロフィル-タンパク質複合体]]
-[[クロロフィル類の吸収スペクトル]]

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