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*シアノバクテリオクロム[cyanobacteriochrome] [#yb0e6077]
シアノバクテリオクロムはフィトクロム類と類縁の光受容体で、これまでのところシアノバクテリアにのみ見つかっているが、非常に多様な発色機構、生理機能、シグナル伝達をもっている.&br;
 シアノバクテリオクロムは色素結合GAFドメイン単独で開環テトラピロールを結合し、光受容体としての機能を果たす.一方、フィトクロム類はPASドメイン–GAFドメイン–フィトクロムドメインを必要とする(一部には、先頭のPASドメインをもたないものもある).GAFドメインは両者で遠い類縁関係がある.シアノバクテリオクロムの発色団は開環テトラピロールの[[フィコシアノビリン]]もしくは[[フィコビオロビリン]]で、GAFドメイン内の保存されたシステイン残基とチオエーテル結合している.&br;

[発色機構]&br;
 発色団のフィコビオロビリンはフィコシアノビリンよりも約60nm短波長の吸収を示すので、ホロタンパク質の吸収にも約100nmのちがいが見られる.また、シアノバクテリオクロムの光変換は、フィトクロムと同様に、発色団の開環テトラピロールのD環のZ/E変換(C15=C16の二重結合の異性化)をひきおこす.しかし、その後の発色機構にちがいがある.多くのシアノバクテリオクロムは、2つ目の保存されたシステイン残基をもつ.光変換に共役して、このシステイン残基は発色団の中央部(C10=C11)に付加・脱離することで大きな波長シフトを示す.このシステイン付加による短波長シフトがZ型で起きるものと、E型で起きるものがある.また、RcaEやCcaSはプロトン付加による長波長シフトを示す(プロトクロミックシフトという).つまり、緑色光吸収のZ型と赤色光吸収のE型のちがいは、プロトン脱着のpKaのちがいによるもので、テトラピロールのD環のZ/E変換は吸収に大きな影響を与えない.一方、これらと逆の関係、つまり、赤色光吸収のZ型と緑色光吸収のE型をもつものも知られているが、その発色機構は よくわかっていない.また、500nm付近に非常にシャープな吸収ピークをもつ一群のシアノバクテリオクロムでは、D環の共役性が消失していることが示されている.&br;

[役割]&br;
 シアノバクテリアのゲノムには、多数のシアノバクテリオクロムの遺伝子が見つかっているが、その機能がわかっているものは少ない.ひとつは、走光性の光受容体(PixJ)で、細菌の走化性受容体と相同のシグナル伝達因子とセットになっている.PixJ型は、他のシアノバクテリオクロムと異なり、複数の色素結合GAFドメインをもつことが多い.たとえば、'''Nostoc punctiforme'''のものは6個もの異なるシアノバクテリオクロム型GAFドメインをタンデムにもち、異なる分光特性をもつことが知られている.また、[[補色馴化]]にかかわる光受容体として、RcaE型とCcaS型がある.どちらもヒスチジンキナーゼドメインを含むよく似たドメイン構成をもつが.前者は赤色光でリン酸化が活性化する赤色光受容体で、後者は緑色光で活性化する緑色光受容体である.これらは、フィコシアニンやフィコエリスリンの蓄積を調節することで、光環境に合わせて光合成のアンテナ色素を最適化する役割をもつ.c-di-GMPという細胞凝集を誘導する二次メッセンジャー分子の合成や分解にかかわるドメインをもつシアノバクテリオクロムも多数知られている.このうち、SesAは青色光でc-di-GMPを合成する青色光受容体で、好熱性シアノバクテリアの低温・光誘導性細胞凝集を引きおこす光受容体である.シアノバクテリアの細胞凝集は、光阻害を避ける役割をもつと考えられている.

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