#freeze
*マンガンクラスター[Mn cluster] [#sf5344fd]
  光合成酸素発生反応の触媒中心.4原子のマンガンと1原子のカルシウムが5つの酸素原子によって結び付けられた,[[歪んだ椅子>歪んだ椅子]]型構造を取っている.シアノバクテリアから高等植物まですべての[[酸素発生型光合成]]生物に共通に存在するが,類似した機能や構造をもつものは,酸素発生型光合成生物以外には一切知られていない.[[光化学系Ⅱ反応中心複合体]]の[[D1タンパク質]]のチラコイド内腔側近傍に存在し,クラスターのみを単離することはできない.酸化された光化学系Ⅱ反応中心(P680)の再還元のための電子を[[チロシンZ]]を介して供給し,自らは酸化される.水分子を酸化して再還元され,結果として酸素分子が生成する.4つの水分子が配位しており、そのうちの1つまたは2つは基質の水分子であると考えられている.水分子とオキソ酸素のほか,6つのカルボキシル基と1つのヒスチジン残基が配位する.酸素発生反応における中間状態(Si(i=0~3))は様々な酸化状態にあるマンガンクラスターに対応している.各S状態にあるクラスターはそれぞれ特徴的なEPR信号を示す.4光量子分の酸化力を蓄積,2分子の水を酸化し,1分子の酸素,4つのプロトンを生成する.活性にはカルシウム,塩素が必須.マンガンクラスターは光合成反応に関与する成分中,その形成に光が絶対的に必要([[光活性化反応]])な唯一の成分である.[[ヒドロキシルアミン処理]],トリス処理などにより選択的に破壊される.生成したクラスターは表在性の33 kDa タンパク質([[マンガン安定化タンパク質]])により安定化される.&br;
 [構造]正確な構造は高分解能結晶構造解析によって明らかになった.それによると,3つのマンガン原子,1つのカルシウム原子が4つの酸素原子によって結び付けられ,歪んだ四角い(キュバン)構造を形成し,その外側に4つ目のマンガン原子が2つのオキソ酸素原子によって本体のキュバンに結びついている.また,電子スピン共鳴(EPR)や[[広域X線吸収微細構造]]スペクトルなどの手法により, S&subsc(1);状態のマンガンクラスターは3つのMn(Ⅲ)と1つのMn(Ⅳ)によって構成されていると考えられているが,これより低い酸化状態も提案されている.&br;
 [タンパク質への結合]結晶構造から,次の7つのアミノ酸残基がマンガンクラスターに配位していることが分かった.D1-Asp170, D1-Glu189, D1-H332, D1-Asp342, D1-Glu333, D1-Ala344, CP43-Glu354.そのうち,D1-Ala344はD1タンパク質のC末端である.&br; [反応]水分子が酸化される過程で反応中間産物が遊離することはないが,マンガンクラスターに結合した基質水分子の酸素はS&subsc(3);状態に至るまで溶液中の水分子の酸素と交換可能である.また,[[X線吸収端近傍構造]]スペクトルはマンガンクラスターがS&subsc(0);状態からS&subsc(3);(またはS&subsc(2);)状態まで1電子ずつ酸化され,S&subsc(3);からS&subsc(0);遷移で酸素分子の生成に伴い,もとのS&subsc(0);状態まで還元されることを示している.S&subsc(3);状態までマンガンクラスターまたは配位アミノ酸残基などが酸化され,S&subsc(3);からS&subsc(0);遷移で2分子の水の協奏的四電子酸化が起こっていると考えられている.しかし,具体的な反応機構に関しては不明な点が残っている.

#ref(Mn配位構造.jpg)


** 関連項目 [#if72ced0]
-[[酸素発生]]
-[[マンガンクラスターの酸化状態]]
-[[S状態モデル]]
-[[マンガンクラスターのEPR信号]]
-[[歪んだ椅子]]

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