#freeze
*マンガンクラスターのEPR信号[Mn cluster EPRsignal] [#o0fa97c0]
  [[酸素発生]]の反応中間状態であるS状態のうちS&subsc(0);, S&subsc(1);, S&subsc(2);, S&subsc(3);の各状態にある[[マンガンクラスター]]の[[電子常磁性共鳴]](EPR)信号が観測されている.マンガンクラスターは多核のマンガンが磁気的相互作用により合成スピンを形成する. S&subsc(0);,S&subsc(2);状態では半整数の合成スピンを S&subsc(1);, S&subsc(3);状態では整数の合成スピンを形成すると考えられる.合成スピンの違いはマンガンの酸化状態の変化によるものか,マンガン近傍に生成したラジカルとの相互作用の変化によると考えられる.&br; S&subsc(2);状態EPR信号は1981年に,マンガンクラスター由来の信号として最初に発見された.この信号はマルチライン信号と呼ばれており, g=2を中心とし,およそ60 mT の範囲で18~19本に分離したピークをもつ.g因子の磁気的異方性は小さく,信号の分離は複数のマンガン核との超微細相互作用に起因する.マルチライン信号は基底状態の電子スピンS=1/2由来と考えられている.マンガンの二核錯体のEPR信号との比較から,マンガンクラスター中にはMn(Ⅲ)-Mn(Ⅳ)の反強磁性di-μ-oxo架橋構造が存在すると推定された.マルチライン信号の[[ENDOR]]の結果に基づき4つのマンガンイオン間の磁気的相互作用構造が提案されている.またESEEMから,ヒスチジンのイミダゾール環の窒素がマンガンクラスターに配位していることが明らかとなった.S&subsc(2);状態ではg=4に40 mTの範囲でEPR信号([['''g'''=4信号 >g=4信号]])が観測される. '''g'''=4信号 の電子スピンはS =3/2または5/2と考えられている.マルチライン信号と'''g'''=4信号 は熱力学的平衡状態にあり,照射光の波長や照射温度,アルコールの存在の有無によって信号強度が交換する.[[カルシウム除去]],アミン処理などの生化学処理によりマルチライン信号の線数は増加し,変形する.[[塩素>塩素(酸素発生)]]イオン除去試料ではマルチライン信号が消失し, '''g'''=4信号 のみが観測される.&br; S&subsc(0);信号はg=2を中心としておよそ60 mT の範囲で20~24本のピークをもち,S&subsc(0);マルチラインとも呼ばれる.S&subsc(0);信号は数パーセントのアルコール存在下でのみ観測される.&br; S&subsc(1);信号はg=4.8を中心にした60 mT のブロードな信号である.電子スピンS=1と考えられ,parallel mode のEPRでのみ観測される.S&subsc(1);状態ではシアノバクテリア,または[[17(16) kDa>18(16) kDaタンパク質]], [[24 (23)kDaタンパク>24 (23) kDaタンパク質]]を除去した高等植物の試料で100 mT以下の低磁場に複数ピークをもつ信号が観測されている.この信号は数パーセントのアルコールによって消失する.&br; S&subsc(3);信号はg=11~15に観測され,電子スピンS=1由来と考えられている.また,S&subsc(3);状態にある試料を近赤外光照射することによってg=2近傍にEPR信号が観測される.カルシウム除去などで酸素発生を阻害した場合,S&subsc(2);状態にある試料を光照射するとg=2付近に9~20 mT の範囲で信号が観測される.この信号は[[S&subsc(3);'信号>S3'信号]](split-signal)と呼ばれているが,S&subsc(3);状態との関係は明らかではない.このほか,マンガンクラスターの高スピン状態に対応するとされるEPR信号も報告されている.


** 関連項目 [#if72ced0]
-[[マンガンの酸化]]
-[[マンガンクラスターの酸化状態]]
-[[S状態モデル]]

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