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*珪藻 [diatoms] [#y782cf52]
~ 淡水から海水域を通じて水圏で最も繁栄している[[不等毛植物]]の一群.単細胞性または群体性,黄褐色の[[葉緑体]]を1〜多数もつ.ふつう[[色素体ER>葉緑体ER]]は核膜と広く連結するが,多数の葉緑体をもつ種ではこれが不明瞭なこともある.ガードルラメラをもつ.[[色素体核様体>核様体]]はガードルラメラに沿ってリング状に分布するが,これに加えて分散型の核様体をもつこともある.クロロフィルとしては[[クロロフィル'''a'''>クロロフィルa]], [['''c'''&subsc(1);, '''c'''&subsc(2);>クロロフィルc]] をもつものが多いが,'''c'''&subsc(1);を欠くものや,'''c'''&subsc(3);をもつもの,特異なクロロフィル'''c'''&subsc(2);様色素(Chl '''c'''&subsc(PAV);)をもつもものもいる.主要なカロテノイドは[[フコキサンチン]]であり,その他に[[ディアディノキサンチン>ジアジノキサンチン]],[[ディアトキサンチン>ジアトキサンチン]],[[β-カロテン]]をもつ.このほかに19’-ブタノイロキシフコキサンチンが一部の種で報告されている.また強光下で[[ビオラキサンチン]]や[[ゼアキサンチン]]を産生することがある.ふつう[[チラコイド]]が陥入した埋没型[[ピレノイド]]をもつ.少なくとも一部では[[従属栄養>従属栄養(生物)]]が可能であり,また光合成能を欠く従属栄養性種もいくつか知られている([[白色体]]をもつ).
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&size(12){Fig 1–8. さまざまな珪藻. 1. '''Aulacoseira''', 2. '''Chaetoceros''', 3. '''Coscinodiscus''', 4. '''Pseudo-nitzschia''', 5. '''Skeletonema''', 6. '''Licmophora''', 7. '''Cylindrotheca''', 8. '''Craticula'''};

~ 珪藻類の最大の特徴として,珪酸質(ガラス)でできた被殻(frustule)で細胞が覆われていることが挙げられる.この被殻は小孔やそれが連なった条線,微細な突起など極めて精細な構造で装飾されている.被殻は蓋と身(上半被殻と下半被殻)からなるが,分裂時には片方ずつ娘細胞に分配され,新たな半被殻が親から受け継いだ半被殻の内側に形成される(そのため一般に細胞分裂を繰り返すと細胞が小さくなる).生活環は複相単世代型.卵生殖(中心類)または同形配偶(羽状類)によって形成された接合子は増大胞子となり,この中で大きな細胞が形成される.遊泳細胞は卵生殖における精子のみであり,1本鞭毛性,眼点や鞭毛膨潤部を欠く.'''Thalassiosira pseudonana'''や'''T. oceanica''', '''Phaeodactylum tricornutum''', '''Pseudo-nitzschia multiseries''' で核ゲノムの,またいくつかの種で[[色素体DNA]]の塩基配列が報告されている.
~ 海から淡水域まで[[植物プランクトン]]として,また底生藻として極めて多く,大増殖することもある.また湿土上やコケ上,強アルカリ湖,海氷,有孔虫細胞内,クジラ表面などに生育するものもいる.水圏の[[一次生産]]者として,また物質循環において極めて重要な地位を占めており,珪藻は地球上の[[総生産]]の20〜25%を担っているとの試算もある.また珪藻の中には大量のジメチルサルホニオプロピオナート(DMSP)を生成するものもおり,硫黄循環に大きく関与する.珪藻は比較的新しい生物群であり,中生代に出現し,新生代中新世以降に優占するようになったと考えられている.
~ 外洋性の大形の珪藻(e.g., '''Rhizosolenia''')の中には,被殻内に短い糸状[[シアノバクテリア]]である'''Richelia'''を共生させている例が知られる。またハフケイソウ科の珪藻('''Rhopalodia''', '''Epithemia''')の細胞内には,スフェロイドボディー(spheroid body)とよばれるほぼオルガネラ化した共生シアノバクテリア起源の構造が存在する.これらの例では,珪藻は共生シアノバクテリアから窒素化合物を得ていると考えられている.
~ ふつう不等毛植物の1綱,珪藻綱(Bacillariophyceae)に分類されるが,近年ではいくつかの綱(Coscinodiscophyceae,Mediophyceae,狭義のBacillariophyceae)に分割されることもある.古くから殻の構造や有性生殖様式に基づいて中心類(centric diatoms,中心目 Centrales)と羽状類(pinnate diatoms,羽状目 Pennales)に分けられてきたが,前者は側系統群であり,現在は分類群名として用いられることはない.タルケイソウ('''Melosira'''),コアミケイソウ('''Coscinodiscus'''),ツツガタケイソウ('''Rhizosolenia'''),ホネツギケイソウ('''Skeletonema'''),ニセコアミケイソウ('''Thalassiosira'''),ツノケイソウ('''Chaetoceros'''),オビケイソウ('''Fragilaria'''),フナガタケイソウ('''Navicula'''),ササノハケイソウ('''Nitzschia''')などが含まれる.

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