#freeze
*群落の光合成[canopy photosynthesis] [#mf2a66e7]
 る土地面積に生育する植物群落全体の光合成を表す.多くの研究では,対象は葉の光合成(と呼吸)に限られる.茎や根の呼吸は無視するため,群落全体の炭素吸収とは一致しない.したがって,本来は「葉群光合成」と呼ぶべきであるが,標記呼称が定着している.また,ガスフラックス計測や群落全体を同化箱で覆うことにより二酸化炭素吸収を測定する場合は,植物の光合成と呼吸だけではなく,土壌呼吸を含むことになる.&br; 群落光合成の特徴は,群落内の個葉の光合成速度が一様ではないことである.植物群落では,上方から降り注ぐ光が上部の葉に遮断されるため,下部ほど暗いという光環境の勾配が生じる.上部の葉の光合成速度が飽和するような光強度でも下部の葉が光飽和になっているとは限らない.また,葉は傾斜していることが多い.これらが原因となって,群落の[[光-光合成曲線]]の光合成速度が飽和する光強度が個葉の場合に比べて高い.&br; 群落内の光環境の勾配の大きさは,[[葉の傾斜角]]など,葉の空間配置によって異なる.イネ科草本など垂直的な葉によって構成される群落([[イネ科型]])では,[[葉群の減光係数]]が低く,光は下部まで届きやすい.一方,水平的な葉で構成される群落([[広葉型]])では,葉群の減光係数が高く,上層の葉でほとんどの光が吸収される.このような光吸収特性の違いは群落内の葉の分布にも影響する.広葉型の群落では葉は上部に集中することが多いが,イネ科型の群落では葉は比較的均一に,あるいは下部に集中して分布する.このような葉の空間分布の違いは,高さに対して葉重量をプロットすることによって図示できる(生産構造図).&br; 個葉の光合成特性も群落の上部と下部では異なる.[[陽葉]]と陰葉の分化同様,上部の明るい環境に存在する葉ほど光合成能力が高い.このような違いの生態学的意義は,光合成の窒素利用に着目し,以下のように理解されている.個葉の[[光合成能力]]を高めるためには,光合成系タンパク質量を増やす必要があり,そのためには,葉に多く窒素を投資しなければならない.しかし,自然界では植物が利用できる窒素の量には限りがあり,効率よく利用する必要がある.光環境が悪い下層では,高い光合成能力をもっていても実際の光合成速度は光に*律速されることが多く,高くならない.したがって,上層の明るい環境にある葉に窒素を多く投資したほうが,個体全体の光合成速度は高くなる.&br; 群落光合成速度は,個葉の光合成特性だけではなく,葉群の減光係数と[[葉面積指数]]に依存する.葉面積指数が増えるに従って群落光合成速度も上昇するが,葉面積指数が過度に増えると,下層の葉の光環境が悪化し,光合成生産が負になるため,群落光合成速度はかえって低下する.群落光合成速度を最大にする葉面積指数を最適葉面積指数という.葉群の減光係数が低い群落では最適葉面積指数が高い.また,葉面積指数が最適な状態での群落光合成速度は,葉群の減光係数が低い群落で高い.&br; 群落光合成速度と環境要因・植物の性質の間の関係は,[[門司と佐伯のモデル]](1953)が発表されて以来,非常によく研究され,数理モデルによって体系化されている.


** 関連項目 [#if72ced0]
-[[個葉の光合成]]
-[[個体の光合成]]

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