#freeze
*遷移双極子[transition dipole] [#rfa1951d]
  分子のHOMO(highest occupied molecular orbital)およびLUMO (low-est unoccupied molecular orbital)の波動関数をそれぞれΨ(r)およびφ(r)とする.(縮退かあっても適当な一次結合により)実関数に採る.rは電子の座標ベクトルである.電子の双極子能率(qを電子電荷としてqr)の両者間での行列要素,q∫φ(r)rΨ(r)dr(≡μ, dr=dxdydz),を遷移双極子といい,三次元実ベクトルである.μ≠0のとき分子は,光を吸って電子が前者から後者に,また光を発して後者から前者に遷移する大きい確率をもつ.この場合を双極子許容遷移,または単に[[許容遷移]]という.偏光ベクトルeの[[光の吸収]]確率は光強度および(e・μ)&supsc(2);に比例するが,後者に比例する部分は(自由電子による光吸収強度との相対比を表す)振動子強度で表すことが多い.&br; HOMOを占める2個の電子はともに光吸収に寄与するので,振動子強度総和則から,分子は2(e・μ)&supsc(2);に相当する振動子強度をもっている.分子の[[励起状態]]ではこれら2電子のいずれかがLUMOに上がっているが,励起状態は量子力学における交換およびスピン・軌道相互作用によってスピン[[一重項>>一重項状態]]および[[三重項状態]]に分裂している.分子の基底状態では, HOMOを2電子が占め,パウリの排他律よりそれらは異なるスピンしかもち得ないので,スピン一重項状態しかできない.したがって,基底状態からはスピン一重項励起状態への遷移のみ許容で,この遷移が2(e・μ)&supsc(2);に相当する全振動子強度を独占している.スピン一重項励起状態が2分子間を移動する[[フェルスター型励起移動]]の相互作用は,各分子における遷移双極子間の静電相互作用により与えられる.このとき上記の事情を反映し,√2μを有効遷移双極子とする静電相互作用となっている.またもっと一般的には,電子励起状態が2分子間を移動する相互作用は[[励起エネルギー移動]]の項目における式(1)で与えられるが,スピン一重項状態の移動のための右辺第1項には因子2が現れる.


** 関連項目 [#if72ced0]
-[[励起移動相互作用]]

トップ   編集 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS