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*部位特異的変異体作製[site-directed mutagenesis]
 遺伝子の機能や発現制御を解析するとき,目的の遺伝子の塩基配列の特定部位に,塩基置換,欠失,挿入の変異を導入した形質転換体(→形質転換植物)を作製し,その表現型を解析する方法は有効である.遺伝子のアミノ酸配列を決めるコード領域に変異を導入し,特定の1つもしくは複数のアミノ酸を別のアミノ酸へ置換したり,欠失もしくは挿入したりすると,タンパク質の構造や機能を変えることができる.このような方法はタンパク質工学(proteinengineering)とも呼ばれる.この方法によりタンパク質の個々のアミノ酸や特定の領域の役割を解析することができる.また,タグ(tag)として機能するアミノ酸配列(たとえば6つのヒスチジン残基)をタンパク質の末端に融合すれば,アフィニティクロマトグラフィーを用いてタグをもつタンパク質を精製できる.また遺伝子のコード領域の5'や3'領域に特異的変異を導入すれば,遺伝子発現に関与するシス(cis)因子の解析ができる.&br; これまでに数多くの部位特異的変異の導入法が開発されたが,いずれも変異をもつオリゴヌクレオチドを用いる方法(oligonucleotide&supsc(-);directed mutagenesis)である.このオリゴヌクレオチドは真ん中に塩基置換,欠失または挿入などの変異を,その両側に野生型の塩基配列を8?10残基もつように設計し,野生型の鋳型DNAとアニールできるようにする.&br; 部位特異的変異をもつDNA作製の古典的な方法としては,次頁上図に示すように目的のDNA断片を含む一本鎖の組換えDNAに変異を導入したオリゴヌクレオチドをプライマーとしてアニールさせる(A). DNA合成酵素とデオキシヌクレオチドの存在下で相補鎖を合成する(B).このようにしてできたDNAは,一方の鎖は野生型で他方の鎖は変異をもつヘテロ二本鎖の組換え体である.これを大腸菌に形質転換し,得られたクローンの中から変異をもつ組換えDNAを選抜する(C).この方法は一本鎖の組換えDNAを用意することと,変異をもつクローンと野生型のクローン選抜に労力がかかるなどの欠点がある.&br; その後,ポリメラーゼ連鎖反応によるDNA増幅法([[PCR法]])が進歩したため,PCRを用いた変異導入法が数多く開発された.特に下図に示したメガプライマー(megaprimer)法では,鋳型に二本鎖のDNA断片を用い,2回のPCR反応で変異をもつDNA断片が高い効率で得られる.1回目のPCRは変異をもつオリゴヌクレオチド,それと逆方向のプライマーと二本鎖DNAを鋳型に用いて行う(a).増幅したDNA断片は,その一方の端の近傍に変異をもつ(b).この二本鎖のDNA断片をメガプライマーとして2回目のPCRに用いる.このときには鋳型DNAと増幅したいDNA断片の両側にアニールする正方向のプライマーと逆方向のプライマーも加える(c).得られたDNA断片には目的の変異が高い効率で導入される(d).&br; PCR反応の過程では低い確率であるが塩基配列の誤りが起こるが, DNA合成反応は何回も繰り返すので,この塩基配列の誤りは無視できなくなる.これを最小限にするため, 3'-5'エクソヌクレアーゼ活性をもちDNA合成時の塩基配列の誤りを修正する活性をもつDNAポリメラーゼを用いる.また,得られたDNA断片に目的の変異が存在し,かつそれ以外の変異が生じていないことを塩基配列を調べて確かめる必要がある.

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** 関連項目 [#if72ced0]
-[[形質転換植物]]

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