#freeze
*water-waterサイクル[water-water cycle] [#u0f0d627]
光過剰の環境もしくは炭素同化系が働いていない条件では,NADPHがCO&subsc(2);固定に必要な量以上に葉緑体で生成し,光化学系Ⅰから供給される電子が過剰となる.このような条件ではO&subsc(2);がNADP&supsc(+);の代わりに電子受容体となって[[スーパーオキシド]](O&subsc(2);-)に還元され,植物,真核藻類の葉緑体では図に示す経路でH&subsc(2);Oに還元される.このサイクルは,以下に述べる(a)~(e)の5段階の反応から成る.これらを合計すると(2H&subsc(2);O + O&subsc(2); → O&subsc(2); + 2H&subsc(2);O)となり,O&subsc(2);の収支はゼロであるため,葉,細胞,葉緑体での観測には,&supsc(18);O&subsc(2);を用いて同位体により酸素吸収と酸素発生をわけて測定する必要がある.O&subsc(2);を一電子還元する(b)の段階と,酸化型のアスコルビン酸を還元する(e)の反応に必要な電子は光化学系ⅡでH&subsc(2);Oの光酸化反応で生ずる.したがって,H&subsc(2);Oに由来する電子によって酸素分子が還元されH&subsc(2);Oを生ずるため,water-waterサイクルと呼ぶ.&br;
(a) 2H&subsc(2);O→4e&supsc(-); + 4H&supsc(+); + O&subsc(2);&br;
光化学系Ⅱでの反応で2分子のH&subsc(2);Oから4電子が生じる.&br;
(b) 2O&subsc(2); + 2e&supsc(-); →2O&subsc(2);&supsc(-);&br;
(a)で生じた4電子のうち,2電子が光化学系ⅠでO&subsc(2);を還元する.この反応速度は(c), (d), (e)の反応速度の10&supsc(-2);~10&supsc(-3);と最も遅く,この反応がwater-waterサイクルの律速反応となっている.このO&subsc(2);の光還元速度はチラコイド膜より葉緑体,葉で数倍速く,ストロマ因子(SF)が光化学系Ⅰの還元側([[F&subsc(A);>鉄硫黄クラスターA]]/[[F&subsc(B);>鉄硫黄クラスターB]], [[F&subsc(X);>鉄硫黄クラスターX]])とO&subsc(2);の間の反応を媒介しO&subsc(2);&supsc(-);生成を促進する.SFとして[[モノデヒドロアスコルビン酸レダクターゼ]](MDAR),[[フェレドキシン]](Fd)が機能すると考えられている.&br;
(c) 2O&subsc(2);&supsc(-); + 2H&supsc(+); → H&subsc(2);O&subsc(2); + O&subsc(2);&br;
光化学系Ⅰで生成したO&subsc(2);&supsc(-);は[[スーパーオキシドジスムターゼ]](SOD)によって不均化され,H&subsc(2);O&subsc(2);とO&subsc(2);を生ずる.植物ではCuZn-SODがO&subsc(2);&supsc(-);の生成サイトである光化学系Ⅰ複合体の近傍に存在し,これによってO&subsc(2);&supsc(-);を速やかに消去し,生成サイトからO&subsc(2);&supsc(-);が拡散できないようにしている.&br;
(d) H&subsc(2);O&subsc(2); + 2AH&subsc(2); → 2H&subsc(2);O + 2AH&br;
反応(c)で生じたH&subsc(2);O&subsc(2);は[[ペルオキシダーゼ]]の電子供与体(AH&subsc(2);)によってH&subsc(2);Oに還元される.植物,真核藻類でAH&subsc(2);は[[アスコルビン酸]](AsA)であり,光化学系Ⅰ複合体に近接して結合しているチラコイド膜結合型[[アスコルビン酸ペルオキシダーゼ]](tAPX)がH&subsc(2);O&subsc(2);を消去する.シアノバクテリアではAH&subsc(2);が還元型チオレドキシンであり,[[チオレドキシン]]ペルオキシダーゼがH&subsc(2);O&subsc(2);を消去する.&br;
(e) 2AH + 2H&supsc(+); + 2e&supsc(-);→2AH&subsc(2);&br;
ペルオキシダーゼ反応で生ずるAHは植物,真核藻類では[[モノデヒドロアスコルビン酸]](MDA)であり,主にFdによって光化学系Ⅰ複合体の近くで,反応(a)で生じた4電子のうち,残りの2電子によってAsAに還元される.&br;
以上のチラコイド還元系はO&subsc(2);&supsc(-);が生成する光化学系Ⅰ複合体に局在しO&subsc(2);&supsc(-);を速やかにH&subsc(2);Oに還元するが,これでも消去できなかったO&subsc(2);&supsc(-);,H&subsc(2);O&subsc(2);はストロマ還元系でH&subsc(2);Oに還元される.O&subsc(2);&supsc(-);はストロマのSODで消去され,生じたH&subsc(2);O&subsc(2);はストロマAPX(sAPX)によって還元され,この反応で生ずるMDAは[[モノデヒドロアスコルビン酸レダクターゼ]](MDAR)で還元される.これで消去できなかったMDAは自動不均化反応(2MDA→DHA+AsA)によってデヒドロアスコルビン酸(DHA)となり,[[グルタチオン]](GSH)を電子供与体とする[[デヒドロアスコルビン酸レダクターゼ]](DHAR)によって還元されAsAを再生する.ルーメンの[[キサントフィルサイクル]]で生ずるMDAは不均化後, DHAがストロマ還元系でAsAに還元される.この反応で生ずる酸化型グルタチオン(GSSG)はNADPHを電子供与体として[[グルタチオンレダクターゼ]](GR)によってGSHに還元される.O&subsc(2);&supsc(-);のH&subsc(2);Oへの還元反応,特にチラコイド還元系では速い速度で反応が進行するため, O&subsc(2);&supsc(-);,H&subsc(2);O&subsc(2);の寿命は短くなり生成サイトから拡散できず,また反応性の高いヒドロキシルラジカル(・OH)の[[フェントン反応]]による生成を抑えている.&br;
現在では,高等植物におけるwater-waterサイクルの生理機能は光合成電子伝達系に蓄積した過剰電子の消去というよりも, 光化学系Ⅱの量子収率調節のためのΔpH形成,もしくは,暗順応条件において炭素同化系が失活している状態に光が照射された際の調節メカニズムだと考えられている.
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** 関連項目 [#if72ced0]
-[[活性酸素種の生成反応]]
-[[活性酸素種消去系]]