β酸化[β-oxidation]

  脂肪酸のβ位が酸化され,2つの炭素数の単位で脂肪酸の炭素鎖が切断される酸化反応.アセチルCoAと炭素鎖が2つ少なくなったアシルCoAが生成し,後者は再びβ酸化系の基質となる.そのため,炭素数が偶数の脂肪酸(炭素数2N)からはN mol のアセチルCoAが生成され,奇数の脂肪酸(炭素数2N+3)からはN molのアセチルCoAと1 mol のプロピオニルCoAが生じる.
 動物ではミトコンドリアとペルオキシソームβ酸化活性が存在するが,ペルオキシソームでは長鎖脂肪酸から中鎖脂肪酸(炭素数8)まで,ミトコンドリアでは短鎖脂肪酸のみ代謝可能なため,ペルオキシソームで中鎖脂肪酸まで代謝された脂肪酸はミトコンドリアへ移行して,さらにβ酸化を受ける(下図).それに対し植物では,ほとんどのβ酸化活性はペルオキシソームにのみ検出される.植物ではペルオキシソームに特異的な短鎖アシルCoA酸化酵素が局在しているため,ペルオキシソーム内で長鎖脂肪酸を完全に酸化することができる.植物のミトコンドリアに低いβ酸化活性が存在する可能性は残されている.
 ペルオキシソームとミトコンドリアのβ酸化系は共に,複数の酵素群から成り(下図),ペルオキシソームの初発酵素がアシルCoA酸化酵素で分子状酸素を電子受容体として用い,過酸化水素を発生するのに対し,ミトコンドリアでは,アシルCoA脱水素酵素を用い,フラビンタンパク質による電子伝達系を利用して呼吸鎖と共役し, ATPの産生に関与する.脂肪酸代謝は,どちらの場合においても,まずアシルCoA合成酵素により活性化を受けることから始まる.このアシルCoA合成酵素も脂肪酸の長さに応じたアイソザイムが存在し,植物のペルオキシソームには,長鎖脂肪酸から短鎖脂肪酸に対応した複数の分子種が存在している.不飽和脂肪酸の場合は,反応過程の途中でイソメラーゼやエピメラーゼの働きにより,二重結合の転換と立体構造の変化を伴う反応が起こり,β酸化系が進行する.
 脂肪性種子植物では,貯蔵物質として脂肪酸を蓄積しており,発芽に際し,この貯蔵脂肪を分解して光合成能を獲得するまでのエネルギーをつくり出す.このため,チオラーゼ遺伝子の欠損したped1(peroxisome defective 1)突然変異体は,β酸化系が働かないため,外部からショ糖を供給しないと発芽できない.β酸化活性は種子の発芽時に上昇し,その後減少するが,老化時には再びβ酸化系遺伝子の発現誘導がみられる.しかし,その際の基質である脂肪酸は明らかにされていない.また,β酸化系は植物ホルモンのジャスモン酸の合成にも関与しているため,種子の発芽時や老化時以外にも,低いレベルでの活性は存在していると思われる.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:46:20