ジビニル(プロト)クロロフィリドレダクターゼ

ジビニル(プロト)クロロフィリドレダクターゼ(DVR)は,多くのクロロフィル色素の合成系において,C8位のビニル基を還元してエチル基へと変換する酵素である.現在の所このDVRには,構造が異なる3つのタイプが存在する.1つはNADPHを還元剤とするタイプ(N-DVR)であり,またもう1つはフェレドキシンを還元力とするタイプ(F-DVR)である.光合成細菌においてのみ,これらN-DVRとF-DVRはそれぞれBciAとBciBと名前が付けられている.さらに光合成細菌のバクテリオクロロフィル a合成系において,クロロフィリド aのB環の二重結合を還元するクロロフィリド a酸化還元酵素(COR)が,DVR活性も有することが確認されており,このCORもDVR酵素の1つとされている.
 N-DVRとCORは基質特異性が高く,ジビニルクロロフィリド aのC8位ビニル基を還元するため,生合成においてはジビニルクロロフィリド aが生成された後にこれらの酵素は働く(図参照).一方で,F-DVRは反応可能な基質の種類が多く,生合成においてはジビニルクロロフィリド aだけではなく,ジビニルプロトクロロフィリド aにも反応する経路も存在すると考えられる.
 N-DVRは光合成生物群全般に分布し,F-DVRはシアノバクテリアと光合成細菌にのみ存在する.植物にはF-DVRと相同性の高い7-ヒドロキシメチル-クロロフィル aレダクターゼ(HCAR)が存在しており,クロロフィルサイクルのクロロフィル bからaへの変換過程で働いている.興味深いことにシアノバクテリアのF-DVRにはHCAR活性も有しており,基質認識が広いF-DVRが植物中でHCAR活性のみを持つように適応したと考えられている.一方でCORにおいては,光合成細菌に特有の酵素として存在する.DVR酵素を生合成系に必要としない色素は,プロクロロコッカスが持つジビニルクロロフィル aとジビニルクロロフィルb,そして一部の紅色細菌が合成するバクテリオクロロフィル bおよびヘリオバクテリアが持つバクテリオクロロフィルgである.これらの生物のゲノム上には3種類のDVRの遺伝子が存在しないことが確認されている。

DVR reaction.png

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:28