デンプンの合成と分解[starch synthesis and degradation]

  植物のデンプン合成におけるグルコース供与体はADP-グルコースであり,動物のグリコーゲン合成の場合のUDP-グルコースとは異なる.ADP-グルコースは主にADP-グルコースピロホスホリラーゼ(AGPase)によって生成される.ADP-グルコースの代謝についてはスクロースシンターゼやADP-グルコースピロホスファターゼが関与する報告もある.イネ胚乳ではα-グルカンホスホリラーゼがデンプン合成のプライマー形成に関与すると考えられているが,シロイヌナズナやジャガイモの緑葉ではデンプン代謝におけるα-グルカンホスホリラーゼの役割は認められていない.

 デンプン合成系は,アミロース合成系とアミロペクチン合成系からなる.アミロースはデンプン粒結合型デンプン合成酵素(GBSS)によって合成される.アミロペクチンは可溶型デンプン合成酵素(SS),デンプン枝作り酵素(BE)およびデンプン枝切り酵素(DBE)の共同作業によって合成される.また,単子葉穀類のアミロペクチン合成にはGBSSIが関与することが知られている.アミロペクチンは特異的なクラスター構造を示す.初期過程ではプライマー,分岐デキストリンを経てクラスター構造が生ずると考えられているが,その形成機構については想像の域を出ていない.増幅過程ではBEによる分岐反応とSSによる鎖伸長反応が基本となる.イネ胚乳においては、BEⅠがクラスター基部の分岐を作り,主にSSⅢaが鎖を伸長させる.続いてBEⅡbがクラスター内部の分岐を作り,SSⅠとSSⅡaが鎖伸長にかかわる.DBEは不必要な分岐を切除し,分岐を局所化させることによってクラスター構造形成に関与する.

 植物におけるデンプン分解の研究は発芽穀類種子において精力的に行われた.このデンプン分解に関与する酵素は種々のアミラーゼであり、なかでも中心的な役割を果たしているのがα-アミラーゼである.α-アミラーゼは分泌性酵素であり、発芽穀類種子では胚盤上皮細胞およびアリューロン層細胞において合成され、デンプン貯蔵組織である胚乳に分泌される.胚乳貯蔵デンプンはα-アミラーゼ,DBE(R酵素),β-アミラーゼ,α-グルコシダーゼの協同作用によってグルコースまで分解される.

 植物の生細胞におけるデンプン代謝の場は葉緑体やアミロプラストなどのプラスチドである.シロイヌナズナやジャガイモの葉緑体のデンプン分解においてはデンプンのリン酸化が重要な役割を果たす.すなわち,リン酸化によってデンプン顆粒構造の緩みを生じ,分解酵素の作用を受けやすくなると考えられる.デンプン分解は主にDBEによるデンプンの枝切りによって始まり,β-アミラーゼが直鎖型α-1,4-グルカン鎖からマルトースを生成する.D酵素(1,4-α-D-グルカン:1,4-α-D-グルカン4-α-D-(1,4-グルカノ)-トランスフェラーゼ.EC2.4.1.25.)によるβ-アミラーゼが作用できないマルトトリオースから鎖長の延びた直鎖型α-1,4-グルカン鎖の生成もデンプン分解の一過程となっている。生じたマルトースはマルトース輸送体によって細胞質に放出される.イネ緑葉のデンプンの分解についてはプラスチド局在型α-アミラーゼおよびβ-アミラーゼの双方の関与が報告されているが,未だ不明な点が多い.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:59