ミトコンドリアと葉緑体の相互作用[interaction between mitochondria and chloroplasts]

 葉緑体ミトコンドリアの両オルガネラ間には,密接な代謝的クロストークがある.最も良く知られたオルガネラ間クロストークの形式として光呼吸が挙げられるが,その他にも葉緑体からの過剰還元力の輸送やミトコンドリアからの炭素骨格の供給などの相互作用も知られている.過剰還元力の輸送は,強光ストレスにより葉緑体内に過剰に蓄積した還元力を,リンゴ酸-オキサロ酢酸シャトルなどのシャトル機構を用いて葉緑体外に排出し,ミトコンドリア呼吸鎖電子伝達系で散逸するというメカニズムである.この代謝経路により,強光照射時の葉緑体の過還元緩和に重要な役割を果たしている可能性が指摘されている.なお,このような環境下では,AOXをはじめとするATP合成と共役しないミトコンドリア電子伝達系の酵素が選択的に誘導・活性化されるため,それらが還元力の消費に鍵となる働きを果たしている可能性が高い.炭素骨格の供給は,GS/GOGAT回路によるアンモニア同化に必要な2‐オキソグルタル酸をミトコンドリアから供給するメカニズムである.
 植物の葉肉細胞内では,葉緑体とミトコンドリアは近接して局在することが知られており,両者間のクロストークが重要な役割を果たしていることを物語っている.しかしその一方で,それぞれのクロストーク様式がどの程度はたらいているのかを定量的に理解するためには,今後さらなる研究を要する.また、ステート遷移が顕著にみられる緑藻クラミドモナスにおいては、高等植物には観測されていない相互作用形式が報告されている.例えば,ミトコンドリアによるATP生産が枯渇したとき,解糖系が亢進されることで葉緑体呼吸によるプラストキノンの還元が起こり,結果としてステート遷移が誘導される.この結果は,ミトコンドリアがステート遷移と協調的に光合成電子伝達系の調節に寄与している可能性を示していると言える.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:16