メタボローム解析[metabolomic analysis]

細胞内代謝物の総体をメタボロームと呼び、その検出と定量を目指すのがメタボローム解析 (Metabolome analysis)と呼ばれる方法である。他のオミクス技術と同様に、細胞内代謝物含量を比較解析する相対定量に用いられる。メタボローム分析の考え方をここではトランスクリプトーム解析との比較で説明する。トランスクリプトームで遺伝子発現量を計測したい配列が事前に決まっている場合、特異的なプライマーを用いたリアルタイムPCR法で定量できる。マイクロアレイは、その計測対象数を数万以上まで増加させる技術と考えることができる。メタボローム分析では、含量を測定したい代謝物を事前に決め、特異的な検出法を設定してから定量を行う手法をターゲット分析と呼ぶ。測定対象化合物が数種の場合、通常の代謝物の定量分析となんら変わるところがない。近年、代謝物の検出に用いる質量分析装置の動作速度が近年飛躍的に向上し、測定対象化合物数を数百のオーダーまで増加させたマルチターゲット分析が可能となった。マルチターゲット分析の利点は、従来の代謝物の定量分析法の延長線上にあるため実施が比較的容易であること、高感度化しやすいことが挙げられる。一方、事前に決めた対象化合物以外は検出できない欠点もある。 次世代シーケンシング技術を用いた遺伝子発現量解析法では、事前に測定対象を決定することなくデータを取得して、分析後にどんな配列が検出できたか決定し、同時に定量をおこなう。このような考え方をメタボローム分析ではノンターゲット法と呼ぶ。検出器をスキャンとよばれるモードで動作させてデータを取得し、検出されたシグナルの保持時間、質量数などをクエリとしてデータベースを検索して代謝物を同定する。さらに、シグナルの強度値を用いて定量もあわせて行う。ノンターゲット法の最大の利点は、新規な代謝物の含量変化を捉える事ができる点にある。一方、欠点は、計測したい代謝物が必ず検出できる保証は無く、分析後のデータ処理に非常に負荷がかかり、さらに感度が劣る点にある。とくに代謝物のデータベース検索に技術的な課題が多く残されており、検出されたシグナルのうち、構造情報が付与できるのは現在でも2割程度である。メタボローム分析が、他のオミクス技術と異なる点は、測定対象の物性が非常に広いことである。測定したい代謝物は、糖、アルコール、糖リン酸、有機酸、アミノ酸、および、アミノ酸生合成中間体、補酵素、テルペン類、脂質などであるが、これらを一斉に分離可能な手法はない。このため現状では、計測可能代謝物の範囲が少しずつ異なるガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)、キャピラリー電気泳動質量分析装置(CE-MS)、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)、核磁気共鳴分析装置(NMR)などの分析装置を用いた手法が並立している。さらに、それぞれでターゲット/ノンターゲット法が開発されている。現時点でもっとも開発が進んでいる計測法は、GC-MSをもちいた糖、糖リン酸、有機酸、アミノ酸のノンターゲット分析法[1]、CE-MSをもちいた糖リン酸、有機酸、アミノ酸およびアミノ酸生合成中間体、補酵素のマルチターゲット分析[2]、LC-MSをもちいた脂質のマルチターゲット分析であり[3]、いずれも光合成微生物、植物の分析に応用され始めている。

参考文献

  1. Lisec J, Schauer N, Kopka J, Willmitzer L and Fernie AR. Gas chromatography mass spectrometry-based metabolite profiling in plants. Nat. Protoc., 2006, 1, 387-396
  2. Yoshikawa K, Hirasawa T, Ogawa K, Hidaka Y, Nakajima T, Furusawa C and Shimizu H. Integrated transcriptomic and metabolomic analysis of the central metabolism of Synechocystis sp. PCC 6803 under different trophic conditions. Biotechnol J., 2013, 8, 571-580
  3. Ogawa T, Furuhashi T, Okazawa A, Nakai R, Nakazawa M, Kind T, Fiehn O, Kanaya S, Arita M and Ohta D. Exploration of polar lipid accumulation profiles in Euglena gracilis using LipidBlast, an MS/MS spectral library constructed in silico. Biosci. Biotech. Biochem., 2014, 78, 14-18

トップ   編集 凍結解除 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:39