一次生産と水[primary production and water]

 水は陸上の植物の一次生産を規定する最も重要な要因の一つである.これは,土壌から植物への水の供給が,直接,代謝反応を制限するだけでなく,蒸散による水の消費を通して,二酸化炭素の吸収に必要な気孔の開きを制限するからである.雨季と乾季がある地域では,降水量の少ない乾季に落葉して葉面積を減らしたり,休眠状態になって気孔は閉じ気味になる.このため,この時期は,一次生産は大きく減少する.さらに,年間降水量が300 mmから500 mmよりも少なくなると,サボテンのように極端に体表面積の小さい植物や,エフェメラル植物のようにきわめて短い期間で生活環を完結する植物しか生えない,砂漠,または半砂漠の植生になり,一次生産は著しく減少する.
 短期的な水ストレスでも一次生産は減少する.細胞の成長は最も敏感に水ストレスの影響を受ける生理過程の一つで,葉の成長は体内水分が減少した直後から低下し,葉面積の増加が大きく抑制される.水ストレスが著しくなると,葉の枯死,脱落による葉面積の減少も起こる.光合成速度も水ストレスの影響を受けて低下する.葉の水ポテンシャルが低下すると,多くの場合まず気孔開度が減少し,葉内への二酸化炭素の供給速度が減少して光合成速度が低下する.さらに葉の水ポテンシャルが低下すると,葉の細胞の光合成活性の低下が起こり,光合成速度はさらに低下する.根系の発達程度は土壌からの水吸収に影響して水ストレスの発生に大きく影響する.水環境は植物の形態形成に大きく影響し,特に根系の発達程度を介してその後の水ストレスの発生に大きな影響を及ぼすことがある.植物の種が同じで,地上部の環境条件が等しければ,一般に植物の水消費量が多いほど一次生産は多くなる.一方,大雨などによって土壌中に水が過剰に存在しても一次生産が減少することがある.これは水が直接植物に及ぼす影響というよりも,水が過剰に存在することによって土壌の物理的,化学的性質が変化することに伴って起こる障害である.これも葉面積や光合成速度の減少を介して一次生産に大きな影響を及ぼす.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:43