二酸化炭素補償点[CO2 compensation point]

 純光合成速度(正味の光合成速度)をゼロにするCO2分圧をいう.このCO2分圧は,生葉周囲,細胞間隙あるいはRubiscoの活性中心での分圧でそれぞれ表記される.CO2補償点の性質として,その値は,C4植物ではきわめてゼロに近く,酸素の存在に影響されない.一方,3植物のCO2補償点は細胞間隙CO2分圧として5~7 Paの範囲(現在の大気CO2分圧は37 Pa)であり,この値はO2存在下で増大する(ワールブルク効果).また,C3植物では温度上昇とともにCO2補償点が増大する.これらの違いは,各植物での光合成速度を律速する反応を触媒する酵素の違いによる.
 C4植物の光合成速度はホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)によるCO2固定反応により,C3植物ではRubiscoによるCO2固定反応により律速される. PEPCのCO2分圧に対する見かけのKm値は1 Pa以下,またRubiscoのKm値は30~35 Paで,PEPCと比較しCO2に対して親和性が低い.この親和性の違いが,C3植物のCO2補償点をC4植物の値よりも大きいものにしている.さらに,PEPCと異なりRubiscoは,カルボキシラーゼ反応によるCO2固定の際,酸素が存在すると光呼吸の初発反応であるオキシゲナーゼ反応を不可避的に触媒する.このオキシゲナーゼ反応はカルボキシラーゼ反応に拮抗し, RubiscoのCO2への親和性を低下させる.また,光呼吸経路ではCO2が発生する.これが,C3植物のCO2補償点が酸素存在下で大きくなる原因である. RubiscoのCO2に対するKmは,温度が高くなると大きくなり,その度合いはO2に対するKmの増加より大きいため,温度上昇に伴うCO2補償点の増大の一因となる.もう一つの要因としては, CO2およびO2のストロマへの溶存率が温度により異なり,高温ほど酸素の溶存率が相対的に大きくなり, Rubisco・オキシゲナーゼ反応が促進されることがあげられる.さらに高温では,呼吸促進によるCO2補償点の増大も考えられる.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:19