低温傷害(冷温傷害)[chilling injury]

  熱帯・亜熱帯起源の果実は,高温よりもむしろ低温で保存するほうが傷みが早い.また,熱帯・亜熱帯起源の植物は,成長中に低温に見まわれると,栄養成長途中では葉枯れや成長不全を起こし,生殖成長途中では生殖器官の不成熟(不稔)をひき起こすことが知られている.これらの現象は,一般に,低温傷害と総称される.
 低温傷害を起こす植物(低温感受性植物)はある臨界温度(critical temperature, threshold temperature)をもっており,気温がその臨界温度を下回ると傷害が発生する.臨界温度は種によって異なるが,一般的に0~15℃の低温が低温傷害をひき起こす.傷害の程度は,温度が低いほど,また低温の時間が長いほどひどくなる.また,傷害は不可逆的であり,低温処理直後は顕著でなくても,室温に戻すと目に見えて進行するのも低温傷害の特徴である.
 果実では,萎み(shriveling),陥没痕(pitting),黄化(yellowing),完熟不全(abnormal/uneven ripen-ing)などが,また植物体では,白色化(bleaching),クロロシス(chlorosis ; クロロフィルの緑が薄くなり,ときには黄化すること),ネクロシス(necrosis ;傷害が進み細胞死を起こすこと),萎れ(wilting)などが傷害の典型的症状として知られる.
 低温傷害を受けた植物体では,エチレンの発生,呼吸の増加,光合成の減退,エネルギー生産の阻害,エタノール・アセトアルデヒドなどの有害物質の蓄積,細胞構造の変化などが報告されている.これらの変化は,しかし,低温傷害の二次的な傷害(thesecondary injury)で,低温傷害の初期過程(theprimary injury)は見た目では判断できない.多くの研究から,低温傷害が最初に発生する部位は細胞膜であるという考えが提唱されているが,傷害発生の初期過程の実体はよくわかっていない.

関連項目


トップ   編集 凍結解除 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:02