個葉の光合成[leaf photosynthesis]

  個葉は光合成をする単位の一つである.典型的な3植物の葉は,葉緑体をもたない表皮に囲まれ,内部に葉緑体をもつ葉肉組織が存在する.多くの種では,葉肉組織は柵状組織海綿状組織に分化している.葉に入射した光は,一部は反射・透過されるが,80%以上は吸収され,光合成に利用される.光合成速度は入射光強度が高いほど高いが,ある程度光が強くなると飽和する.100 μmol m-2 s-1以下の光強度では,光合成速度と入射光強度はほぼ比例する.葉内に入射した光は表側の葉緑体によく吸収されるため,葉の内部では光強度の勾配が存在する.この勾配に沿って葉緑体の性質が異なる.表側の葉緑体ほどRubisco/クロロフィル比やクロロフィルa/b比が高い.このような葉緑体の性質の違いは陽葉・陰葉の違いによく似ており,異なる光環境で効率よく光合成するために都合がよいと考えられる.光合成の基質であるCO2は,表皮の気孔を通って葉内に拡散する.気孔が開いていると,葉内へのCO2取り込みが増えるが,同時に水蒸気が葉内から大気へ拡散してしまう.このため植物は気孔の開度を変え,気孔コンダクタンス(気孔抵抗の逆数)を厳密に制御している.気孔コンダクタンスは,弱光環境など光合成速度が低く,CO2供給の必要がない条件や,乾燥条件など水分の損失が負の影響を及ぼす条件で低い.一般に,好条件下では,葉内のCO2濃度と外気のCO2濃度の比が0.7~0.8程度になるように気孔コンダクタンスが調節されている.
 葉内に入ったCO2は,細胞間隙を通って葉肉細胞の細胞壁に達し,細胞膜,細胞質,葉緑体包膜を通過してストロマに入り, Rubiscoによって固定される(C3植物の場合).この際の拡散過程にもある程度の抵抗(葉肉抵抗)がある.同位体を用いた測定などにより,光合成が盛んに行われている状態でのストロマ中のCO2濃度と細胞間隙中のCO2濃度の比は, 0.7~0.8程度にまで下がると考えられている.
 十分に強い光を照射したときの葉の光合成速度はCO2濃度に強く依存する.300~400 μL L-1より低いCO2濃度では,光合成速度はCO2濃度に律速される.このとき律速段階は, Rubiscoが触媒する,RuBPの二酸化炭素固定反応である.このCO2濃度では,Rubiscoが多い葉ほど光合成速度が高い. 400 μL L-1より高いCO2濃度では,光合成速度はストロマ内のRuBP濃度に律速される.このときの律速段階はチラコイド膜における電子伝達速度であることが多いと考えられているが,ショ糖合成など他の反応が律速する場合もある.
 光合成能力は,同一種内では葉の窒素含量と高い正の相関を示す.これは,葉の窒素の大半が光合成系タンパク質に含まれているためである.このため,窒素含量が光合成能力の指標として用いられたり,窒素を光合成におけるコストと見なした経済学的解析が行われたりしている.光合成能力と窒素含量の関係は種によって異なり,窒素当たりの光合成能力は光合成窒素利用効率と定義され,種を特徴づける性質の一つとして使われている.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:42:56