光化学系Ⅰ一次電子供与体[PSI primary electron donor]

  アンテナクロロフィルに吸収された光エネルギーは最終的に反応中心クロロフィルに伝達され,初期電荷分離反応を引き起こす.この際に、反応中心クロロフィルから一次電子受容体に電子受け渡されることから,反応中心クロロフィルを一次電子供与体とも呼ぶ.光化学系Ⅰ一次電子供与体はP700と呼ばれ,他のアンテナクロロフィルよりエネルギーレベルが低いため(→長波長アンテナ,光化学系Ⅰの長波長蛍光),光エネルギーはよい効率でP700に伝達される.励起されたP700(P700*と表される)は,次いで電子を,やはり特殊な存在状態のクロロフィル分子である光化学系Ⅰ一次電子受容体に渡して,自身は酸化型となる.この過程は,数ピコ秒(ピコ= 10-12)以内に起こる非常に速い反応であり,光エネルギーを化学エネルギーに変換する最初の化学反応である. P700の酸化還元電位は400 mV 付近にあるが, P700*の酸化還元電位は-1,300 mV にもなり,非常に強い還元剤となる.これが光化学系Ⅰで強い還元力を生み出す原因となる.
 P700の実体はクロロフィルaクロロフィルaエピマーから成る二量体である.そのため,2つのクロロフィル分子の吸収帯が縮退して700 nm 付近にかなり幅の広い吸収帯をもつようになる.二量体をつくっている各々のクロリン環はほぼ平行に3.6Åの距離を隔てて並んでいるが,各々のクロリン環は互いにずれており,それぞれのピロール環のうちA環とB環のみが部分的に重なっている.また, これらのクロリン環は膜表面に対してはほぼ直交しており,チラコイド膜のルーメン側に位置している.クロロフィルaエピマーのMg原子はPsaAポリペプチド鎖のヒスチジン(Thermosynechococcus elongatusではHisA680)と配位結合をしており,そのフィトール基はPsaBポリペプチドの方向に延びている.一方,クロロフィルaのMg原子はPsaBポリペプチド鎖のヒスチジン(T. elongatusではHisB660)と配位結合をしており,そのフィトール基はPsaAポリペプチドの方向に延びている.クロロフィルaエピマーのみがPsaAのアミノ酸残基と水素結合しており,そのため, P700が1電子を放出した後,+電荷はかなりの割合でクロロフィルa分子側に局在することになると推定される.したがって, P700の酸化型はChl a'-Chl a+の形となり,2つのクロロフィル分子の吸収帯の縮退が解けて685 nm 付近にクロロフィルa(エピマー)の単量体型の吸収帯が出現する.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:23