光合成色素系[photosynthetic pigment system]

 アンテナ系,光合成アンテナ系,アンテナ色素系,エネルギー捕集系,色素系とも呼ばれる.光化学反応を駆動するためには色素が光を吸収し,その励起エネルギーを複数の色素を介して反応中心へ渡すことが必要であり,光合成色素系は光吸収とエネルギー移動の機能を担う色素とそれらを結合したタンパク質から構成される.光合成色素系は反応中心との関係で,反応中心に直接励起エネルギーを渡す中心集光装置と,中心集光装置にのみ励起エネルギーを渡す周辺集光装置,の2種類に大別される.酸素発生型光合成生物には,光化学系Ⅰおよび光化学系Ⅱがあるが,中心集光装置,周辺集光装置はそれぞれの特徴ある構成となっている.
 光化学系Ⅰでは,中心集光装置は反応中心と同じタンパク質に組み込まれており一体となっている.光化学系Ⅱにおいては, CP43, CP47と呼ばれる2種類のクロロフィルタンパク質複合体から構成される.色素に関しては,酸素発生型光合成生物では少数の例外を除いて,中心集光装置はクロロフィルaβ-カロテンにより構成される.光合成細菌においても原理は同じである.光化学系Ⅰ型反応中心をもつ緑色硫黄細菌やヘリオバクテリアでは反応中心と中心集光装置が一体になっており,光化学系Ⅱ型反応中心をもつ紅色細菌や緑色糸状性細菌ではLH1と呼ばれるバクテリオクロロフィルを結合したタンパク質複合体がその機能を果たす.
 一方,周辺集光装置は色素,タンパク質の両面で多様性に富み,これが光合成生物の分類基準としても用いられる.酸素発生型光合成生物の光化学系Ⅰについては,紅藻において初めてLHCIと呼ばれる膜内在性の周辺集光装置が獲得され,真核の光合成生物はすべてそれを引き継いでもっている.光化学系Ⅱについては細かく分類される.シアノバクテリア,紅藻,灰色植物,クリプト藻は水溶性のフィコビリンタンパク質をもつ.これ以外の藻類や高等植物は膜内在性のLHCIIと呼ばれるクロロフィルタンパク質複合体をもち,これに系統的に特徴のある色素が結合して多様性を示す.不等毛類に分類される褐藻,珪藻には特異なカロテノイドであるフコキサンチンを結合しているLHCII(フコキサンチン-クロロフィルa/cタンパク質複合体, FCPと略されることが多い)が,また緑藻,鮮苔類,陸上植物にはクロロフィルa,bを結合したLHCII(クロロフィルa/b タンパク質と呼ばれることもある)などが代表例である. LHCI, LHCIIはいずれもLhcスーパーファミリーと呼ばれる一群のタンパク質である.LHCI,LHCIIには必ずクロロフィルとカロテノイドが結合しており,どちらか一方ということはない.緑色硫黄細菌,ヘリオバクテリアでは周辺集光装置にあたるものは知られていない.紅色細菌はLH2,緑色糸状性細菌ではクロロソームが周辺集光装置にあたる.クロロソームにおいては,色素の自己会合体が色素系を形成しており,色素の空間的な配置,エネルギー準位の決定などにタンパク質が直接関与することがないとされている.各色素は,タンパク質複合体の中で空間的な位置が固定され,またアミノ酸側鎖との相互作用,アミノ酸がつくる電場,磁場などによってエネルギー準位が決定される.このことによって,反応中心へのエネルギー準位の勾配が形成され,方向性のあるエネルギー移動が実現されている.光合成色素系でのエネルギー移動過程は,全体としてのエネルギーの流れや速度に関しては情報が増えてきたが,各色素分子のレベルでの解明には時間が必要である.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:42:51