光運動[photomovement]

  光によって誘導される運動の総称.代表的なものに光走性と光屈性がある.両者とも運動の方向が光の入射方向(あるいは,最も強い光が入射する方向)によって決定される.光走性は藻類の遊走子や単細胞の藻類が行う移動運動で,光屈性は,種子植物など,移動することができない多細胞植物が体の一部で行う屈曲運動である.屈曲はねじれを伴う場合もある.光が入射する側に移動する走性を正の光走性,反対側に移動する走性を負の光走性と呼ぶ.同様に,光が入射する側に屈曲する屈性を正の光屈性,反対側に屈曲する屈性を負の光屈性と呼ぶ.光屈性には,葉がその表面を光の入射方向に向ける運動など,正と負の符号では表現できないものもある.単細胞の藻類などが光強度の変化に応答して運動を停止したり,運動方向を変えたりするのは光驚動反応である.光走性と区別されるが,この反応も個体の明所への集積,あるいは強光からの逃避をもたらす.種子植物の葉などが示す光運動のうち,屈曲が光の方向とは関係なく,形態的に定まった方向に起こるものは光傾性と呼ぶ.葉の就眠運動(日周期に連動した傾性運動)に関与するが,実際の就眠運動は概日時計によって制御される部分が大きい.光走性には鞭毛運動によるものと,滑走運動によるものがある.光屈性と光傾性における屈曲は一般に,不均等な成長によってもたらされる.マメ科植物など葉枕をもつ植物は,運動細胞と呼ばれる特殊化した葉枕柔細胞の膨圧を調節することによって,成長に依存することなく葉の光屈性や光傾性を示すことができる.なお,成長に基づく運動を成長運動,膨圧変化に基づく運動を膨圧運動とも呼ぶ.多くの種子植物は光に応答して気孔を開く.これは,孔辺細胞の膨圧調節によってひき起こされる光運動であり,膨圧運動の一つでもある.細胞小器官が行う光運動に葉緑体光定位運動がある.一般に,弱光条件で光が入射する側に葉緑体は移動し,強光条件では光を避けるように細胞の側面に移動する.
 以上のように光運動の様式は多様であるが,多くは光合成機能と関係して,光エネルギーの捕獲効率を上げたり,阻害的な強光を避けたりする働きをしていると考えられる.光合成機能とは明らかに関係しない光運動に,花の光屈性(花を支える茎の屈曲運動で,多くは正の光屈性)や根の光屈性(多くは負の光屈性)がある.また,負の光走性には紫外線障害の防御が主な役割と考えられるものもある.光運動には,特異的な光受容体と光情報伝達系が関与している.たとえば,緑藻クラミドモナスの光走性では,レチナールを発色団としてもつ色素タンパク質が光受容体である.また,種子植物の光屈性や葉緑体光定位運動に働く光受容体は,フラビンを色素団にもつ色素タンパク質のフォトトロピンである.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:06