共発現解析[co-expression analysis]

原核生物や葉緑体などのオルガネラでは一連の代謝に関わる遺伝子群がオペロンを構成することで、一括して遺伝子発現を制御するシステムが存在する。一方、真核生物の核ゲノムではオペロンは基本的には存在しない。しかし、真核生物に核ゲノムコードの遺伝子群に関しても、同じ代謝経路や制御系に属するなど機能の類似した遺伝子群については、それら遺伝子群の発現プロファイルが良く似ていることがある。この現象は共発現と呼ばれる。また、逆に考えれば、様々な条件下において発現プロファイルが良く似ている遺伝子群は、同じ代謝経路に属する、もしくは、同じタンパク質複合体を形成するなど、同様の生理的機能を有している可能性が高い。

高等植物の光合成関連遺伝子、葉緑体遺伝子についてはその傾向が強く見られることから、共発現解析は遺伝子機能を予測するための強力なツールである。この手法により、未知遺伝子の機能予測をする解析手法が共発現解析である。公的なレポジトリに登録されているマイクロアレイデータや次世代シークエンサーのデータが飛躍的に増え続けていることも、この手法の有用性を高めている。シロイヌナズナなどの一部モデル生物においては、東北大学の大林武博士らによって開発されたATTED-II(http://atted.jp/)のように、公開マイクロアレイデータを利用した共発現データベースを利用することで、容易に自分の興味のある遺伝子と共発現する遺伝子群を調べることもできる。

遺伝子発現プロファイルの類似性の指標としては、よくPearson 相関係数(PCC)が用いられる。PCCの値が1に近いほど正の相関が高く、-1に近いほど負の相関が高い。また、0に近いほど相関は弱い。別の方法として、順位相関係数を用いる場合もあり、こちらはノンパラメトリックな手法のため、データの正規分布を仮定する必要がない。計算した相関係数は発現プロファイルが類似した遺伝子群のリストの作成やクラスター解析、共発現遺伝子ネットワークの作成などに用いられる。

共発現の機構としては、例えば、共発現遺伝子群がプロモーター領域に同じcis因子を有し同じ転写因子によって転写調節を受ける機構が考えられるが、実際にはその他の調節機構によって制御されている可能性も十分に考慮する必要がある。


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:36